九州・山口の飲食店、レストランの新しい潮流を発信するビジネスサイト「フードスタジアム九州」

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Title:鐘崎の漁師たちの誇りと地元への愛「鐘崎天然ふく」~キリンビールが応援する九州

MAIDE IN KYUSHUのビールメーカーとして

2012年より展開している「世界一の九州をつくろう。」キャンペーンを通じて、これまでキリンビールは九州各地の素晴らしい人、素晴らしい食材に出会ってきた。

その背景には九州の工場で造られるキリンビールの原材料が九州産ビール麦であるという事実がある。キリンビールもまた「MADE IN KYUSHU」の逸品の1つとしての自負があるのだ。

自らが九州産ビールなのだという視点で見た時、同じ九州にはとびきり魅力的な人がいて、本当に美味しい食材がある。
そのことに気がついた今、キリンビールは魅力的な九州の食材を紹介し、地元九州を真剣に応援する活動を始めている。

今、キリンビールが九州の飲食店の皆様へご紹介したいと考える食材の中で、まずその筆頭に挙げられるのが福岡県宗像市の鐘崎港で水揚げされる「鐘崎天然ふく」である。

ふく出漁を控えた漁船でひしめく鐘崎漁港

ふく出漁を控えた漁船でひしめく鐘崎漁港



取扱量日本一の下関の“トラフグ”の1/3は鐘崎のふく

フグと言えば誰しもが思い浮かべるのが下関。事実、フグの取扱量日本一は下関市南風泊(はえどまり)市場である。しかし、その下関は決してフグの産地というわけではない。東京の築地が日本中から水産物が集まる場所であると同じように、下関は山口県内及び九州各県で水揚げされたフグの集積地なのである。
そして、その下関南風泊市場で扱われるふぐの内で最も漁獲量が多いのは実は宗像漁協の鐘崎港のふぐであることを知る人はまだ少ない。
特に下関から出荷される天然のトラフグの約1/3は鐘崎のとらふくが占めている。

そう、鐘崎は日本有数の天然トラフグの産地なのだ。

「天然のとらふくの美味しさは言葉に出来んとです。そりゃぁ美味しいですよ。ですから、鐘崎のふくをアピールすることで食べる機会を増やしたい欲しいと思っています」

ふくを獲り続けて40年。宗像漁業協同組合・中村忠彦組合長

ふくを獲り続けて40年。宗像漁業協同組合・中村忠彦組合長



そう語る宗像漁業協同組合の中村忠彦組合長はふく漁をして40年。鐘崎のふく漁は中村組合長それよりはるか以前から続く伝統的な漁である。

「もうずっと昔からですけん、いつからとは分からんですと。昔は台湾近くまで2昼夜3昼夜かけてふくを獲りに行っていました。その頃は山口県の萩の方からも多くの船が出漁していましたが、年が経つにつれ中国や韓国の船が増えると同時に日本の船は近海のみの操業となり、山口の方では後継者不足などから船が減り、今は下関で扱うふくの量は鐘崎が一番になったとです」

そのような状況の中、宗像漁協には3つの悩みがあった。

先ずはふくの消費量そのものが日本全体で伸び悩んでいること。特に天然とらふくは今も昔も高級食材の華として扱われているが、バブル崩壊以後の国内の消費全般の伸び悩みに合わせ、接待関係で料亭などが使われることが減ったことと養殖物の台頭で需要は頭打ちになっているのが現状である。

2つ目は漁場の資源保護。

水揚げされたふくはふぐ処理士の資格を持ったスタッフにより“見欠き”処理をされる

水揚げされたふくはふぐ処理士の資格を持ったスタッフにより“見欠き”処理をされる



鐘崎港に水揚げされるふくは天然ものであるだけに乱獲にならないよう出漁日の自主規制を行いつつ、組合員同士で必要以上の競争が起きないようくじ引きで最初の漁場を決め、漁期内で漁場をローテーションすることで公平な漁が出来るよう配慮している。

しかし、何よりも鐘崎の漁師には昔から天然とらふくの漁を行ってきた誇りがある。
下関にふくを送ると、その時点でそのふくは「下関のふく」になってします。
そうではなく自分達が獲ったふくを「鐘崎のふく」として胸を張りたい。

そのようなふくを取り巻く状況と、ふくに対する想いから宗像漁協は宗像市および地元観光協会と連携しながら「鐘崎天然ふく」「鐘崎天然とらふく」のブランド化に取り組み始めている。
ブランド化にあたり特筆すべき動きは、先ずはふくの加工場の設置と、“凍眠”と呼ばれるアルコールを使った急速冷凍のシステムの導入であろう。

これは飲食店に対し漁協の方が事前に“見欠き”(みがき・フグの除毒作業のこと)をふぐ処理士の資格を持っている職員が行うことで安全なフグの下処理をした状態での直売を行うための取り組みである。

天然ものの風味を壊すことなく冷凍させるアルコール冷凍“凍眠”

天然ものの風味を壊すことなく冷凍させるアルコール冷凍“凍眠”



さらに「鐘崎天然とらふく」は活魚のまま出荷することが殆どであるが、「鐘崎天然ふく」として扱っている“かなとふく(しろさばふぐ)”と“しまふく”は、見欠き後に真空パックを施した上でアルコールに浸した状態で急速冷凍する“凍眠”を行うことで、冷凍物であっても刺身にも出来るほどの鮮度の高い品質を維持すると同時に、冷凍ストックを作り年間を通じての供給が出来る体制を作ろうとしている。

そして、もちろん「鐘崎天然とらふく」も「鐘崎天然ふく」も漁協との直接取引が可能である。

それに合わせて地元観光協会とも連携しながら「鐘崎天然とらふくフェア」と題した一連のキャンペーンを展開。東京でのイベントを実施し、さらに地元の飲食店・旅館と連動したPR活動を行い「鐘崎=ふく」というイメージ作りを行っている。

その活動の背景には玄海の荒波にもまれながら長年ふく漁を続けてきた漁師達のプライドと、地元の人達の「宗像を自分達が誇れる場所にしたい」という想いが詰まっている。

 

宗像に広がる想いの共鳴~「御宿はなわらび」

その地元の愛を感じさせるとらふく料理を提供しているのが、宗像市「御宿はなわらび」である。

「とらふく御膳」(3900円)とらふく刺し・ふくちり・ふくの唐揚と盛り沢山でこのお値段。

「とらふく御膳」(3900円)とらふく刺し・ふくちり・ふくの唐揚と盛り沢山でこのお値段。



12年前より鐘崎漁港からほど近い宗像市江口の地で常設のお食事処と宿泊の出来る離れを構える「はなわらび」では、地元の魚に拘り続け鐘崎のふくの漁期の間は天然とらふくを使った“とらふく御膳”を3900円(税別)で提供している。

驚くのはその価格。地元とは言え天然トラフグを使いながら、とらふぐ刺し・ふく唐揚・ふくちりと、ふく料理の美味しさを満喫できる内容で3900円は「安い!」の一言である。

「食材はとことんこだわります。鐘崎漁港の魚はもちろん、鮮魚は全て朝4時に起きて市場に直接仕入れに行きます」
そう語るのはチーフの小林大二さん。
とらふく御膳の現在の価格は、“鐘崎天然とらふくフェア”に協賛してのものではあるが、元々それ以前から試行錯誤しながら地元鐘崎のとらふくをもっと多くの人に提供したいという想いから提供し続けてきたメニューでもある。

「はなわらび」のお客様は東京や関西からのお客様も多い。

「御宿はなわらび」チーフ小林大二さん

「御宿はなわらび」チーフ小林大二さん



その中でも目立つのが、地元に住むおじいちゃんやおばあちゃんの元に県外へ出てしまった家族が帰省した時に一緒に食事をするというシチュエーション。
「地元に帰ってきたからこそ地元の美味しい料理を食べさせたい」と考えるおじいちゃんおばあちゃんの気持ちと、「せっかくだからおじいちゃん達にも御馳走を食べてもらいたい」という帰省した家族の気持ちが重なり合う、そんな料理が「はなわらび」では提供されているのだ。

そして、「夏は鐘崎で揚がるイカ、冬は『鐘崎天然とらふく』をウリにしていますが、お客様の多いのは冬の方です」という小林さんの言葉通りに、冬の「鐘崎天然とらふく」を楽しみにしているお客様も多い。

「今やっていることをもっと質を上げ、正直な仕事をすることがリピーターを作ることに繋がると思っています。宗像にあるからこそ宗像の食材を活かした料理をもっとお客様に提供して行きたいです。もちろん来年もふく御膳はやりますよ」

小林さんはそう語ってこれからも地元宗像と「鐘崎天然とらふく」を応援する気持ちを表現してくれた。

 

九州の食材で作る中華料理~「中国菜館福新楼」

地元に対する郷土愛を表現しているのは日本食・和食の世界だけではない。

「醋烹魚片・白身魚の切り身甘酢あんかけ」(1550円)。素材を活かす味付けのバランスが絶妙。

「醋烹魚片・白身魚の切り身甘酢あんかけ」(1550円)。素材を活かす味付けのバランスが絶妙。



博多に根差して110年。博多で最初にオープンした中華料理店、福岡市中央区今泉の「中国菜館 福新楼」

その「福新楼」の地元九州の食材に対する気持ちを社長室長の張端宏(ちょう たんこう)氏は次のように語ってくれた

「本来の中華料理の考え方は、先ず食材はその土地で手に入る物を使い、それを中華鍋、中華包丁などに代表される中華料理の調理器具と調理技法で調理するというものです。
ですので『福新楼』でご提供している料理の殆どは九州の食材を使ったものなのです」
そう語る氏の表情には博多で110年の歴史を刻んだ同店の「九州の中華料理」というスタイルに対する自身と誇りが垣間見える。

そんな「福新楼」では、グランドメニューに仕入食材の一覧を掲載しており、現在、「かなとふく」に関しては、年間を通じて供給が安定しないため、一部他地域産も使用と表記している。

だからこそ1年を通じて「鐘崎天然ふく」を供給しようとしている宗像漁協の取り組みは、

「中国菜館 福新楼」社長室長・張端宏氏と同店料理長・王和雄氏

「中国菜館 福新楼」社長室長・張端宏氏と同店料理長・王和雄氏



同店にとって非常に意味のある動きとなっている。

この冬から「福新楼」では「鐘崎天然ふく」の“かなとふく”を、同店のメニュー「醋烹魚片・白身魚の切り身甘酢あんかけ」(1550円(税別))に使っている。
「以前は、安定して入る九州産の白身魚自体が無かったので、他地域や海外産を使用していました。そんな中で福岡県が主催した地産地消のイベントで鐘崎のふぐのことを知って『これは!』と思っていたところ、キリンビールの営業の方が仲介して下さって使うようになりました。」
そう同店の料理長・王和雄氏は「醋烹魚片」に「鐘崎天然ふく」を使うに至った経緯を語ってくれた。

さらに続けて「味はやはり他とは比べ物になりませんよ。お客様の評判も良いです」とも。
事実、同店の「醋烹魚片」は柔らかな甘酸っぱさの後に来るふくの白身の繊細な味わいが楽しめる逸品。白身魚の風味と甘酢味のバランスが絶妙だ。

そのバランスの中に、同店のこだわりと110年の歴史が垣間見える。

 

九州への愛を持った人達を応援します!!

キリンビールが出会った九州の素晴らしい食材である「鐘崎天然とらふく」。

その背景には厳冬期の玄界灘で厳しい漁をする宗像の漁師達の誇りと思いがある。
そこで獲れた「鐘崎天然ふく」をより多くの人達へ届けようと知恵を絞る宗像の人達の情熱がある。
そして、その誇りと情熱を受けて「鐘崎天然ふく」を極上の料理にしてお客様に提供する飲食店の皆様がいる。

キリンビールは、今、その全ての人達の想いを受けて「鐘崎天然とらふく」を応援している。

それは、九州産大麦を原料にしたビールを造る“MADE IN KYUSHU”のメーカーとして。
何よりも九州を愛するビールメーカーとして。

これからもキリンビールは九州の素晴らしい食材、魅力的な人達、そして九州への愛を持った人達を応援したいと考えている。
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取材協力店データ

NAME:御宿 はなわらび
ADRESS:福岡県宗像市江口518-1 九州自動車道 古賀IC、または若宮ICより約30分
PHONE:0940-62-0107
HP:http://hanawarabi.net/

NAME:中国菜館 福新楼
ADRESS:福岡県福岡県福岡市 中央区今泉1丁目17-8
PHONE:092-771-3141
HP:http://www.fuxinlou.co.jp/

Title:【COLUMN Vo.12】お客様にとっての意味がそのお店の価値

2月も後半に入りましたが、まだまだ寒い日が続いています。
それでも今週取材で訪れた佐賀県の七山では梅の花が咲いていました。
春はもうそこまで来ていますね。

七山へは農家の取材で行きましたが、フードスタジアム九州では九州の生産者の方々をご紹介し、応援しながらも、同時に飲食店の食材に対する意識の向上も意図しています。

飲食店の価値の中心はやはり「美味しさ」にあります。
その美味しさを作るのは料理人の技術よりも先に良い食材を使っているかどうか。
料理人の技術は良い食材の上に成立します。

その意味で良い料理人ほど良い食材を自分の脚で探されていますし、お客様に「美味しい!!」と心の底から言って頂くことを幸せに感じる料理人ならば、食材を探すのは当たり前です。

ただし飲食店をビジネス的に俯瞰した時、「美味しさ=繁盛」という図式にならないことも多くあります。
そこでは何が起きているのでしょうか?

飲食店の価値の中心にあるのが「美味しさ」であることは変わらないにしても、その美味しさが飛び抜けたものでないとお客様に価値を価値として感じてもらうところまでいきません。

「普通に美味しい」には価値はないのです。

そして、お客様の眼から見た時に飲食店に期待するのは美味しさ+αであったりもします。
美味しいのはお客様にとってお金を払ってまで食べる以上は当たり前のこと。
それ以上の何がないと、お客様はその店に価値を感じません。

その+αをどう作るかが飲食店の勝負なのです。

繁盛店の多くを見ると、その+αがちゃんとあるお店ばかりです。
そして、繁盛店が作る+αはその店の個性と呼ばれるものの中から生まれている場合が多く、自店の個性をきちんと理解し、それがどうお客様に伝わればお客様に喜んで頂けるかが分かっているお店が繁盛店になっています。

ただし、お店の個性によりお客様に感じてもらえる価値は様々に変化します。
「面白い店」であることも価値ですし、「かっこいい店」であることもそれが本当にかっこ良ければ価値になります。
「元気な店」も価値ですし、逆に「静かな店」も価値になり得ます。

こうやって書くと取り留めがなくなりますが、要は自店がどういう店であろうとするのかと、それがお客様にどういう意味を持つのかをちゃんと考える必要があるということです。

「面白いお店」はそのお店を使うことでお客様は明るくなれます。
「かっこいいお店」はお客様のライフスタイルの質を高めます。
「元気なお店」はお客様も元気になれます。
「静かなお店」ゆったりと寛ぐことが出来ます。

そのようなお客様にとっての「意味」をどう作るかが、そのお店に価値があるかないかに繋がります。

 

書店に行くと様々なビジネス書があり、その中には「物を売るな○○を売れ」と言った価値作りに関する内容の本が並んでいたりもします。
その多くは「書いている内容は間違ってはいないけれど」「けれど…」そんな感じのものが殆どでしょう。
実際に飲食を成功された方が書いた情報は自分の店の場合であることが殆どです。
そして飲食を経験していないコンサルタントの人が他人からの情報と理論を優先して書いたものも多くあります。

それらの本や情報が役に立たないとは言いませんが、表面的に捉えるだけだとそれこそ意味がない。

それよりも先ずは自店がどんな店であろうとするのか?
自分自身がどうしたいのか?
自店のお客様はどんな人で、何を求めているのか?
お客様にとって意味のある店になるためには何をすべきか?

それをとことん追求して行った先にそのお店の個性と、そのお店だからこそ提供できる価値が生まれます。

そんな独自の価値を持ったお店が福岡にもっともっと増えて欲しい。

そうすれば福岡の街はもっと楽しくなると思いませんか?

 




 

島瀬武彦島瀬モノクロ横
1971年7月20日生まれ。山口県山口市出身。学習院大学フランス文学科中退後、家業の喫茶店の2代目として飲食店経営に関わる。山口県山口市徳地という山の中の田舎の立地に苦戦する中で、神田昌典氏が主宰する「顧客獲得実践会」に参加。通販業界が使うダイレクトレスポンスマーケティングの手法を飲食店の集客に応用することで売上を劇的に改善。2004年よりマーケティング・戦略コンサルタントとして活動。2014年よりフードスタジアム九州編集長を務める。

 

 

Title:MOTTOX MEETS Luca Suzumoto~ワインインポーターとイタリアンレストランの出会いから生まれる新しい食文化

◆モトックスのワインインポーターの枠を越えた想い

(株)モトックスはワインのインポーターであるが、これまで福岡ではワインインポーターの枠を越えた活動をしてきている。
例えばスパークリングワインのイベントFesta Del Spumante(フェスタ・デル・スプマンテ)を2012年より独自開催。2014年には参加店舗が300を越えるなど大きな話題性と注目を集めている。
さらに昨年よりイタリア・トスカーナ地方に注目したToscanAmore(トスカーナモーレ)を開催。80種におよぶトスカーナのワインの紹介だけではなく、トスカーナワインに合わせる料理の組み合わせを各参加店舗が提案するスタイルも話題を集めた。

それら活動の背景には(株)モトックス・西日本チームのある想いが反映している。
それは、福岡がスペインバスク地方のように地域全体がオーベルジュのようになり、内外の観光客を集める場所になってほしいという想いである。

これまでモトックス・西日本チームは営業活動として福岡の地に足を運び、多くの飲食店を訪れることで福岡の飲食店の可能性を確認。特に素材面においての国内では有数の食材宝庫と言って良いポテンシャルを知ることで「街のオーベルジュ化」がこれからの福岡が進むべき道ではないか?という想いを抱くようになった。

そのため必要なのはただ素材が美味しいだけではなく、クオリティの高い料理と多様性のある食の文化の形成だ。

そう考えたモトックス・西日本チームはその中でもワインの分野で出来ることとして、先ずはワインを飲む習慣を増やしてもらうためにフェスタ・デル・スプマンテを開催することで、ワインを日常的に楽しむ入り口としてスパークリングワインの普及を目指し、さらにはトスカーナモーレを開催することで料理とワインのマリアージュという、様々な組み合わせを楽しむ“多様性”を福岡のお客様に知って頂くきっかけ作りを行ってきたのだ。

モトックス・西日本チームのリーダー、大戸拓己氏は多様性のある食文化についてこう語ってくれた。

「私は状況や招待する人や一緒に行く人によって使い分けられるレストランを幾つも知っているということは、大人の嗜みだと思っています。そして、自分が選んだレストランで、自分で料理を選ぶことが出来、なおかつその料理に合わせたワインを自分でチョイス出来るようになることが“かっこいい大人”の振舞いだと。私自身は若い頃、そういったことを大人の先輩に教わって来ました。しかし、今はそういう機会も減っていると思います。福岡には素晴らしい飲食店が数多くあり、さらには世界には美味しいワインが星の数ほどある。その中で、自分で店を選び料理を選びワインを選ぶことが出来る大人が増えることが食文化の成熟に繋がると思っています。そういう人が1人でも増えてもらいたいという気持ちの中でフェスタ・デル・スプマンテやトスカーナモーレを開催してきたのです」

自分で料理を選んで、自分でワインをチョイスすることが大切と語る(株)モトックス・西日本チームの大戸拓己氏

自分で料理を選んで、自分でワインをチョイスすることが大切と語る(株)モトックス・西日本チームの大戸拓己氏



 

◆ミシュラン・ビブグルマンにも選ばれた名店~福岡市薬院 Luca Suzumoto

そのモトックス・西日本チームの想いに深く共感し、フェスタ・デル・スプマンテやトスカーナモーレなどのイベントに積極的に参加している福岡の飲食店の中でも、特に「同じ志を持って下さっている」とメンバーが感じている福岡市の飲食店がある。

その店とは薬院駅すぐ近く、城南線の通りから1本奥に入ったテナントビルの2階にあるイタリアン「Luca Suzumoto」。

薬院の隠れ家的イタリアンとして知る人ぞ知る存在であるが、昨年はミシュランガイド福岡・佐賀版においてビブグルマンにも選ばれることで、その存在感を内外に広く示した。

その「Luca」に足を踏み入れると、カジュアルで落ち着いた雰囲気の店内からはまるで友人の家に呼ばれて料理をご馳走してもらうかのような「おもてなし感」が溢れているのが感じられる。さらに、そこで出される料理もイタリアでの修業経験のある鈴本紀彦シェフが腕によりをかけ作る一級の品々。

鈴本シェフは福岡市内のイタリアンで修業をした後、2004年から渡伊し、1年半かけてイタリア国内各地の飲食店のキッチンを歴任。特にトスカーナに隣接するウンブリア州では半年間滞在し、その地の伝統的な料理を学ぶ。
帰国後は福岡市の「ラ・ヴィレッタ」のシェフをオープン時より務め、2012年にはオーナーシェフとして「Luca」を開業。
イタリア料理とワインをもっと身近に親しんで欲しいとの気持ちから自らソムリエの資格を取るなど、福岡にイタリア料理の文化とワイン文化の両方を根付かせようとする想いの強いオーナーシェフである。

鈴本シェフ自身は「Luca」の料理を「先ずは素材ありき。季節感のある料理を意識しています。イタリアの各地で勉強をしましたが、それらの地方色の強い料理の味をそのまま福岡で表現しようと思ってはいません」と語る。

料理の地方性とは鈴本シェフにとって醤油の味の違いのようだと言う。
例えば関東の醤油の辛みが強いのはマグロなどの赤身の魚を常食することで必然的に培われた味であり、逆に白身の魚の多い九州では甘みの強い醤油が作られている。
その地域により食材の方向性が違い、それにより調味料の味も変わり、料理自体の味も変化する。イタリア各地の料理の味もその地域で獲れる食材により生まれた味だからこそ、福岡では福岡で使える食材に合わせた味を作る必要がある。

例えば1月のランチのメイン料理に出していた「ブリのパン粉焼き」は冬の旬の寒ブリを使った食材ありきの一品。
ブリの風味を活かしたシンプルな味付けは、正に「福岡のイタリアン」と呼ぶにふさわしい美味しさである。

その一方でイタリアの伝統的な技法を強く意識した料理もある。
1月のディナーにも出されている「キタッラ 魚介と芽キャベツのソース」は、イタリア語でギターを意味する“キタッラ”というパスタが使われているが、ギターのように絃を貼った板で手打ちされて作られる細く平たい形が特徴的なパスタだ。
このキタッラを作る板はイタリアから取り寄せたもので、もし同じものを国内で手に入れようとすると特注するしかないという大変珍しいもの。手打ちパスタ独特のもっちりした食感と、平べったい形からくるソースとの馴染みの良さと、細さからくる繊細な味わいが冬の魚介類の風味にマッチした極上の一皿だ。

鈴本シェフはこのような伝統的な技法を使った料理について「自分自身が伝統を学んだから出来ること」と話をしてくれた。伝統を学び、伝統を知っているからこそそれをアレンジすることも出来ると。

そのようなイタリアの伝統的な技法を使いつつも福岡の素材に合わせてアレンジした料理が提供されているのが「Luca」の料理の特徴であり、それらを通して新しいイタリア料理の文化を発信しようとしているのが「Luca」というお店そのものと言っても良いかもしれない。

素材を活かし、伝統技法をアレンジする「Luca」の料理【左】「ブリのパン粉焼き」旬の材を活かしたシンプルな味わいが逆に豊かな風味を生み出している。【右】「キタッラ 魚介と芽キャベツのソース」。お皿の後ろにあるのが減を張ったキタッラ用の器具。イタリアの伝統的な技法を福岡の食材でアレンジした一皿。

素材を活かし、伝統技法をアレンジする「Luca」の料理【左】「ブリのパン粉焼き」旬の材を活かしたシンプルな味わいが逆に豊かな風味を生み出している。【右】「キタッラ 魚介と芽キャベツのソース」。お皿の後ろにあるのが減を張ったキタッラ用の器具。イタリアの伝統的な技法を福岡の食材でアレンジした一皿。



 

◆選択肢の多さと多様性から生まれる新しい食文化

その鈴本シェフはワインについて、自店では自らがお客様に接することでイタリアワインの魅力を伝えるよう心がけているが、同時に店の外でもイタリアワインをもっと身近に親しんで頂くための活動を「グルッポ ヴィノーカ」という団体の活動を通して行っている。

「グルッポ ヴィノーカ」はイタリアワインの魅力をより多くの人に知ってもらうために、福岡市内のイタリアンのシェフやソムリエが集まって作られた団体であり、鈴本シェフはその設立メンバーの1人でもある。
2013年からはインポーターや酒販店主導ではなく市内の飲食店が主導してイタリアワインを紹介するイベント「VINO!VINO!!VINO!!!(ヴィーノ!ヴィーノ!!ヴィーノ!!!)」を開催しており、鈴本シェフもイベント当日は試飲会のブースに入ってお客様にイタリアワインの魅力を直接お話ししている。

その福岡のワイン市場の動向を鈴本シェフは「5年前に比べるとずいぶんワインが浸透してきた」と感じている。
だが同時に「まだまだの部分もあります」とも語る。

例えばお客様に好みのワインの味をお聞きすると「しっかりと濃い味の赤」と言われることが多いのだが、その答えからは多様な味のワインが存在するイタリアワインの世界のほんのまだ一部だけしか知られていないと感じることが多いと鈴本シェフは言う。

「イタリア料理と同じくイタリアワインも多種多様性が魅力です。様々な美味しさがあり、だからこそ選ぶ楽しさがある。その多様性をもっと知ってもらいたいと思っています」

そう語る鈴本シェフの目線は、正しくモトックス・西日本チームと同じ方向を向いている。

豊かさとは選択肢の多さの中に生まれ、文化は多様性の中から生まれる。
多様性は料理で言えばその地域の食材の持つ多様性の中で生まれ、ワインはそれが醸造される地域性やその地域独自のブドウ品種の中で生まれる。

そして、その料理とワインの様々な組み合わせを楽しむ妙も多様性が生み出す文化であり、福岡の食材をベースにした料理と、それに合わせたワインのマッチングは、そのまま福岡の独自の食文化に繋がる。

その中で必要なのは先ずは店自身が多様性を容認し、そこから福岡だからこそ出来る料理を発信しながら、同時にワインも料理も選択肢の多さを楽しむお客様を育てること。

その先にあるのはより豊かな福岡独自の食文化に他ならない。

「Luca」の鈴本シェフはそれを飲食店として志しながら様々な活動を行い、モトックス・西日本チームはワインインポーターとして志して、同じ方向を向く飲食店を応援しながら、自らもその想いを実現するための活動を行っている。

両者は時に協力し合いながら、時にそれぞれの立場から生まれる別々のアプローチで、福岡独自の多様性に富んだイタリア料理の世界を構築し、同時に多種多様なイタリアワインを紹介しながら新しい食文化を作ろうとしているのだ。

最後にモトックス・西日本チームの大戸氏が語ってくれた言葉を記載しておこう。

「福岡の街に独自の食文化を作るには様々なアプローチがあると思いますが、大事なのはそれぞれの活動を『続けること』です。続けることにより積み重なった過程が結果を生み出してくれるのです」

モトックスとLucaが目指す道には険しさが予想される。
それでも両者は「続けること」で前に進もうとしているのだ。

 

【左】「Luca Suzumoto」のオーナーシェフ・鈴本紀彦氏。自店だけではなく「グルッポヴィノーカ」の活動を通してイタリアワインの魅力を伝える。【右】まるで知り合いの家に呼ばれたかのようなくつろいだ雰囲気になれる「Luca」の店内。

【左】「Luca Suzumoto」のオーナーシェフ・鈴本紀彦氏。自店だけではなく「グルッポヴィノーカ」の活動を通してイタリアワインの魅力を伝える。【右】まるで知り合いの家に呼ばれたかのようなくつろいだ雰囲気になれる「Luca」の店内。



 




 

取材協力店
NAME:Luca Suzumoto
ADRESS:福岡県福岡市中央区白金1-1-12 アサリコーポラス2F
ACESS:西鉄薬院駅より徒歩3分。駅から渡辺通方面に歩いて『宝来ビル』が見えたら
右折してすぐ。
PHONE:092-406-2740
OPEN TIME:ランチ / 11:30~13:30os ディナー / 18:00~22:00os 水曜定休
HP:http://luca-suzumoto.com/

Title:【話題店チェック】楽しく!安く!そして上質!進化形居酒屋~福岡市警固 上人橋通り IZAKAYA芥

◆31歳の若きオーナーが生み出す魅力とは

「このお店はちょっとやりすぎたかもしれません」

そう言いながら半分は誇らしげに、半分は苦々しく笑ったのは「IZAKAYA 芥」のオーナーである株式会社芥代表取締役・榎本浩徳氏。
「なんたって原価率が半端ないですから」

2014年7月にオープンした「IZMAKAYA 芥」は大名から薬院へ抜ける上人橋通りの小さなテナントビルの2Fにひっそりと佇む。
その場所ではかつて居酒屋甲子園でV2を成し遂げた「居心地屋 蛍 上人橋店」が営業していたが、同店が春吉へ移転した後に入居したのが「芥」である。

オープン時にプロモーションらしいプロモーションをすることなく静かに開店した「芥」であったが、オープン後数カ月はお客様が付かずに苦戦。

「8月の週末なのにお客様が2組という日もありました」と榎本氏はオープン時の苦境を語る。

しかし、そこから徐々に口コミとリピーターでお客様が増加。
今では土日は2週間前でないと予約が取れない状態になり、繁盛店への階段を昇り始めている。

プロモーションをしなくても増客出来ている事実は理想的ともいえるが、やはりお客様が増えるには増えるだけの理由がある。
それだけの魅力が「芥」にはあるのだ。

オーナーの榎本氏は現在31歳。
福岡市薬院の「居座火家 喜人」など福岡市内の和洋様々な飲食店で修業を積み、26歳の時に故郷である鹿児島市東千石町に「酒楽食 芥」を開業。
その後鹿児島市内に2店舗の居酒屋を開業し31歳となった昨年、満を持して福岡へ進出。
福岡1号店である「IZAKAYA 芥」をオープンさせた。

「IZAKAYA 芥」について榎本氏自身はこう語る。

「最初の1店舗目でこれをやらなくて良かったと思っています。大変ですよ、この店は。今の自分がやりたいこと、楽しいことを全て詰め込んだのが『芥』です」

株式会社芥 代表取締役 榎本浩徳氏。31歳の若き経営者のこれからが注目である。

株式会社芥 代表取締役 榎本浩徳氏。31歳の若き経営者のこれからが注目である。



 

◆上質さとコストパフォーマンス

「IZAKAYA 芥」の魅力。
その第1は料理のクオリティとコストパフォーマンス。
例えば居酒屋の定番「お刺身盛り合わせ」を注文すると、出てくるのは丸いお盆に美しく盛られた刺身。ぱっと見はガストロノミーを表現したレストランで出されるような1品だが、確かにそこにあるのはお刺身の盛り合わせに他ならない。それが2人前1280円。驚くべき価格である。

さらに「地鶏タタキ 柚子エスプーマ」は真ん中が窪んだお皿の縁に地鶏のタタキと柚子と野菜が並べられ、お客様に提供する際に流行の調理器具であるエスプーマで泡にした柚子醤油を真ん中の窪みに注ぎ、タタキと柚子の香りがあふれる泡を絡めながら食べる料理。エスプーマというまだ居酒屋ではなじみの薄い器具を使いながらお客様にビジュアル的な楽しさとインパクトを伝えている

これも680円。明らかに中身と価格の間にギャップがある。

「牛サガリのステーキ 泡雪仕立て」(950円)に至っては1枚のお皿の上に絵画が載っているかのようなビジュアルへのこだわり。

コーンフレークとパン粉をアンチョビバターとオリーブオイルで炒めて作った粉を土に見立て、白い泡の雪に緑のハーブ類で彩りを作ることで皿の上で絵画的な大地と自然を表現している。

それらの料理は全て榎本氏の過去の調理場経験だけではなく、高級業態の料理や著名なシェフの料理等、様々な形で榎本氏自らが情報を集め勉強したものの中から「これを食べてもらいたい」と感じたものを提供している。

「居酒屋でもここまで出来るんだというところを見せたい」と榎本氏は語る。

ともすると大衆的なイメージで語られやすいが故に下に見られがちな居酒屋の料理だが、「芥」の料理のレベルを上げることで居酒屋の料理自体のイメージを上げたいと考えているのだ。

驚くべきコストパフォーマンスを見せる芥の料理。【左】美しい絵画のような「お刺身盛り合わせ」(2人前1280円)【中】流行の調理器具を取り入れた「地鶏タタキ 柚子エスプーマ」(680円)【右】お皿の中で大地と自然が表現されている「牛サガリのステーキ 泡雪仕立て」(950円)

驚くべきコストパフォーマンスを見せる芥の料理。【左】美しい絵画のような「お刺身盛り合わせ」(2人前1280円)【中】流行の調理器具を取り入れた「地鶏タタキ 柚子エスプーマ」(680円)【右】お皿の中で大地と自然が表現されている「牛サガリのステーキ 泡雪仕立て」(950円)



 

◆居酒屋の自由さと楽しさの新しい表現

ただし、そう言いつつもただ上質な料理だけに拘ったわけではない。

さらに安ければ良いと考えているわけでもない。
そこが「IZAKAYA芥」の魅力の2番目でもあり、榎本氏自身のもう1つの拘りがある。

それは自由で楽しい居酒屋であること。
居酒屋の持つ雰囲気、お酒と料理から生まれる自由で楽しい空気感、そこに生まれる自由さと楽しさといった居酒屋らしさ自体に榎本氏は拘っているのだ。

そして、その居酒屋らしさに拘るために榎本氏は逆に様々な思い込みやとらわれを捨てている。

例えば一見カフェかバルのように見える空間デザイン。
居酒屋というイメージからはかけ離れたデザインではあるが、今の時代のお客様の持つ柔軟な思考の中にあっては、むしろ昔からある和風の居酒屋の内装イメージの方が型にはまって自由さがない。

「芥」の空間デザインは今のお客様に型にはまらずに居酒屋を楽しんで頂くためのものであり、これもまた自由さの表現の1つである。

さらにホールとキッチンというスタッフの専門性をなくし、全てのスタッフがキッチンスタッフというのが「芥」のスタイル。
「芥」にはホールのみのスタッフは存在しない。
料理人が作った料理をそのまま料理人がお客様にサーブするスタイルは、これもまた居酒屋らしい自由な表現でもあるが、同時にここに料理のコストパフォーマンスの秘密がある。

オペレーションを簡略化しホールスタッフを置かず少人数で全体を回す工夫をすることで、原価をかけながら人件費を抑え、全体のコストコントロールの中で利益を確保するのが「芥」の収益モデルとなっている。

さらに、オペレーションの簡略化を狙いつつお客様に自由な楽しさを提供しているのが飲み放題のセルフサービス。
飲み放題を注文するとテーブル横に設置されたボックスに詰まっている小瓶のビールやカクテル、ソフトドリンクが自由に取り放題になる「芥」の飲み放題のシステムは、お客様にとっては自分の好きなドリンクを気兼ねなく自由に選べる楽しさがあると同時に、店にとってはドリンクを提供するオペレーションの手間が省ける一石二鳥の仕組みとなっている。

これは「ドリンクはホールスタッフが提供する」という思い込みを捨てた結果生まれたシステムだが、同時にこういった大胆なアプローチが許されるのも居酒屋が本来持っている自由さがあってこそのことだろう。

飲み放題用のボックス。お客様はここから自由に飲みたいドリンクをチョイス出来る。

飲み放題用のボックス。お客様はここから自由に飲みたいドリンクをチョイス出来る。



 


◆「次の店は夏までに」オーナーが語る今後の展開

「居酒屋だから」という言葉を言い訳にしない上質な料理。
それでも居酒屋の持つ自由さと楽しさを様々な形で表現した店内の演出。
そして何よりも、気軽に使える居酒屋としての圧倒的なコストパフォーマンス。
オープン以来着実な増客を実現している「IZAKAYA芥」の背景には、今までにない新しい進化形居酒屋の魅力が詰まっている。

その「IZAKAYA芥」の今後の展開を榎本氏は次のように語ってくれた。
「やはり福岡にこれから店を増やしたいと考えています。ただし『芥』と同じスタイルを多店舗化するのは難しいと思います。この店は自分のエッセンスを全て詰め込んでいるだけに自分がいないと成り立たないので。ただし、その『芥』のエッセンスを活かしながら業態を変えてスタッフにも任せられるスタイルを次の店では作ります。『芥』を中心に様々な業態のお店を提案したいと考えています」

多店舗化を前提に料理人のスキルアップのための料理コンテストと、商品知識向上のためのペーパーテストを実施する等、既に人材育成にも乗り出しているという榎本氏。

次店舗の予定は「夏までに」と語る榎本氏と「IZAKAYA芥」の動きに、今後も注目して行きたい。

カジュアルなカフェのようなデザインの店内。

カジュアルなカフェのようなデザインの「IZAKAYA芥」の店内。これからの展開に注目したい。



 

店舗データ

店名 IZAKAYA芥
住所 福岡県福岡市中央区警固1-1-23 2F
アクセス 大正通り薬院六つ角交差点より上人橋通りに入って約100m
電話 092-791-4217
営業時間 18:00~26;00(L.O) *火曜日のみ23:00ラストオーダー
坪数客数 33坪/40席

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Title:【九州・山口の酒】福岡県三井郡大刀洗町 井上合名会社“三井の寿”~化学とセンスと情熱で造る酒

サブ1

 

今から約25年前、北海道のある地酒屋が面白い試飲会を開催した。

その頃は地酒と言えば東北・北陸のいわゆる米どころの酒が中心。しかし、九州にも旨い地酒があることに目を付けたその地酒屋が行ったのが、新潟の「八海山」や「〆張鶴」などのその時代でも既にビックネームになっていた北国の地酒と、九州・福岡の当時無名であった地酒をブラインドで(銘柄が分からない状態で)飲み比べて、一番美味しいと思った酒に投票してもらうブラインド試飲会を開催したのだ。

その結果、上位に選ばれたのは全て九州の地酒。
さらにその時でも1位になったのが井上合名会社の造る「三井の寿」であった。

「だからでしょうね。今でもうちの蔵は北海道の取り扱いが多いんですよ」
と笑うのは井上合名会社の専務であり同社の蔵元杜氏を務める井上宰継氏。

このエピソード自体は井上氏が蔵で働くようになる前のものだが「三井の寿」の実力を知るには十分な話であろう。

井上氏は1970年生まれの44歳。
前職は「ハーゲンダッツジャパン」。
「ハーゲンダッツでは品質管理の大事さを学びました」という井上氏が4代目として実家の蔵に帰り日本酒造りの道に入ったのは今から17年前のこと。
さらに蔵元杜氏としての経験を積み始めて13年。
その13年間で全国新酒鑑評会において9度の金賞と3度の入賞を果たした、福岡を代表する蔵元杜氏の1人と言って良いのが井上氏である。

その井上氏のことを業界内では「酵母の魔術師」と呼ぶことがある。
元々はあるメディアの取材を受けた際に付けられた呼び名であったが、井上氏の多彩な酒造りを知る人であれば「そうそう!」と頷きたくなる通り名であろう。

井上氏がこれまで手掛けた酒の品目数は100品以上。
現在も「かなり絞りました」と謙遜されながら、それでも年間約30品の酒を醸す。

使う酒米の品種だけでも10種。
その10種の酒米の特徴と精米度合いと酵母の種類を使い分けながら、その全てに質の高さを感じさせる多様な酒造りを実現しているのだ。

しかし、井上氏自身は今の自身の酒造りを「まだ過程です」と断言する。
「今はまだ昔から造ってきた本来の三井の寿の味と、私が造る酒の味をすり合わせている段階です。そのすり合わせが進めばもっと品数は絞りますよ」
と語る井上氏の言葉の背景には、13年で9度の金賞に輝きながらも自身の進む道の先を見据える謙虚さがある。

「酵母の魔術師」井上氏の酒造りを象徴するのが「イタリアンラベル」と名付けられた一連の季節限定の純米吟醸のシリーズだろう。

四葉のクローバー、てんとう虫、セミ、きのこ等の可愛いイラストとイタリア語の商品名を重ねた「イタリアンラベル」は、先ずは見た目の可愛さでお客様の興味を引き付け、その上で季節ごとに変わる味わいで日本酒の奥深さを感じて頂く狙いがある。
特に春限定の「QuadoliFogilio(クアドリフォリオ)」は「吟のさと」という酒米を60%に精米し造られた生の純米吟醸なのだが、同じ「吟のさと」60%だが今度はひやおろしの「Poltini(ポルチーニ)」を秋限定で出すことで、同じ酒米の酒が造りを変え季節を経ることで味わいが変わることを感じてもらい、日本酒の面白さを理解して頂けるように考えられている。

「イタリアンラベル」シリーズ以外においても酒米の違いや酵母の違いで、華やかでモダンな味わいの酒からどっしりとして日本酒好きが好む深い味わいの酒まで多種多様な酒を醸し、「三井の寿」を飲み比べることで日本酒の面白さを知ることが出来るようになっているのだ。

「酵母の魔術師」井上合名会社・井上宰継氏

「酵母の魔術師」井上合名会社・井上宰継氏



 

サブ2

 

その井上氏は自身の酒造りのこだわりを「酒造りは化学とセンスと情熱」と表現している。

先ず第1は化学。
「酒造りは江戸時代から変わっていないのです」と言う井上氏だが、それでも時代が変わることで化学が発達し、今は江戸時代から続く酒造りの「なぜその味になるのか?」という“原理”が分かるようになってきた。

例えば使う米の質や酵母の違い、さらに温度と時間の関係から味がどう変わるのかが化学的に分かるようになってきたのが現代の酒造りなのだ。

その辺りを料理に例えるならば、同じレシピのカレーを作ろうとしても常に同じ味にするのは難しい。なぜならば使う材料のジャガイモや人参であれば収穫からの経過で水分量が変わり、1つ1つの大きさも違う。それらが違うことで味は“化学的に”違う物になる。
さらに調味料を入れるにしても、順番が変われば鍋の中で起こる化学変化が違ってくる。

同じことが酒造りに言えるが、逆にそこをコントロールすることで狙った味が造れる。
それが井上氏の言う“化学”という要素である。

ただし、それだけではまだ足らない。
化学的な理論や原理が分かったとしても酒造りの現場は年ごとに変化する。
その年の酒米の水分量であったり、その年の気温の変化や湿度の変化、その変化の中で何をどのタイミングで、どの順番で行うことが最適の状態に導くかを判断できること。
それが“センス”である。

もちろん、そこまで化学的な原理を追求し、その上で狙う味を作るために状況に応じた細やかな判断を行なおうとするならば、その姿勢の根源には“情熱”が必要になってくるのは当然だろう。

そして、井上氏の情熱の源泉は蔵元杜氏であることに集約される。

井上氏の「化学とセンスと情熱」が注がれ醸される酒

井上氏の「化学とセンスと情熱」が注がれ醸される酒



 

サブ3

 

井上氏自身もちろん最初から蔵元杜氏ではなかった。

元々は「三井の寿」と長い付き合いがあり東京でも有数の地酒専門の酒販店である「はせがわ酒店」とのコネクションから全国の意識の高い蔵元と付き合うようになったのがきっかけである。そして、その多くが蔵元杜氏であることで酒造りについての教えを受け、そこで自社の酒造りを自分でやってみたところからが井上氏の杜氏としてのキャリアのスタートであった。

今でも井上氏は全国の蔵元とのネットワークを大事にし「自分の経験が足らない部分は人から教えを受けることで補っています」と言う。

さらに通常の杜氏と蔵元杜氏の違いを井上氏はチャレンジ精神の違いと考えている。
通常の杜氏は雇われて仕事をしているので、どうしても造りが保守的になりやすい。保守的になるが故に「その地方の昔ながらの味」のみを考え、酒を無難に作ろうとしてしまうのだ。
しかし、日本酒の流通も全国的になり、地方のみではなく全国のお客様を視野に入れた酒造りが求められる今の時代においては、そのような地方性だけを考えた酒造りでは将来性が生まれない。
地方性を乗り越えるチャレンジ精神が必要になってくるのだが、それはリスクを背負える蔵元杜氏だからこそ出来ることでもある。

さらにリスクを背負うからこそより真剣に酒造りに取り組まざるを得ない。
そこに井上氏の言う“情熱”が生まれるのだ。

井上氏の「酵母の魔術師」という通り名も、100品以上を生み出した多産性も、「イタリアンラベル」のような細やかな仕掛けも、全ては蔵元杜氏としての情熱が生み出した産物と言えるかもしれない。

「三井の寿 純米吟醸 酒未来」 あの「十四代」蔵元の高木氏から薦められた「酒未来」という酒米を使って造られた、井上氏の全国に広がるネットワークを象徴する純米吟醸。

「三井の寿 純米吟醸 酒未来」
あの「十四代」蔵元の高木氏から薦められた「酒未来」という酒米を使って造られた、井上氏の全国に広がるネットワークを象徴する純米吟醸。



 

サブ4

 

その井上氏は日本酒の未来を極めて楽観的に捉えている。

「日本全国には1500の蔵があると言われています。さらに福岡だけでも70もの蔵があると言われていますが、自分でもその全部は知りません。まだまだ自分の知らない余地は沢山ありますし、だったら売り先はまだまだある。日本酒はまだまだ売れると思っています」

実際、井上合名会社が造る日本酒の殆どは純米酒だが、全国の日本酒のシェアのうち純米酒が占める割合はまだ1割程度にすぎない。
つまり純米酒の延びる要素はまだまだあると考えられるのだ。

さらに今から井上氏が目指しているのは海外から日本への“日本酒の逆輸入”である。

現在も既にアメリカ、イギリス、中国、シンガポールといった海外との取引が始まっているが、今後はそれをさらに拡大させながら世界中で普通に日本酒が飲まれる状況を生み出し、海外の評価を逆に日本に持って来ることで日本酒の評価を高めたいと考えている。

「世界中が飲めば日本酒はいくらでも売れますよ。日本酒の未来は明るいですね」
そう笑う井上氏の明るい表情を見ていると、その言葉はそのまま実現する可能性が高いと感じさせる。

世界的な日本食ブームを追い風に、海外でも日本酒の評価が高まりつつある現在、2011年には佐賀の「鍋島」、2013年には福岡の「喜多屋」とIWC(インターナショナルワインチャレンジ)のサケ部門グランプリを生み出し注目される九州北部の日本酒。
その中にあって既に福岡のみならず日本と言う地域性すら飛び越えた視野で将来を考えている酒蔵が井上合名会社である。

「三井の寿」が世界に羽ばたき「三井の寿が福岡にはあるんだ」と地元福岡が自慢できる。
そんな日が来ることは、そんなに遠くない将来かもしれない。

 

大正11年創業だが日本で一番若い酒蔵と言われる井上合名会社の瀟洒な雰囲気を持った蔵。ここから世界へ新しい日本酒が飛び立とうとしている。

大正11年創業だが日本で一番若い酒蔵と言われる井上合名会社の瀟洒な雰囲気を持った蔵。ここから世界へ新しい日本酒が飛び立とうとしている。



 

 

店舗データ

店名 井上合名会社 代表者 井上茂康
住所 福岡県三井郡大刀洗町栄田1067-2
アクセス 西鉄甘木線、大堰駅より徒歩10分
電話 0942-77-0019

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