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伝説のお店

【伝説の店 Vo.1 いろり山賊 玖珂店】


~世界観のあるお店。それが古典の普遍性と未来的な新しさを常に持ち、同時に立地の不利も業種業態の枠をも飛び越えた常識外の超繁盛店を生み出す~

 

●長く続くお店には何が必要なのか?

飲食店を開業する際、誰もが願うことがある。

それは「長く続くお店を作りたい」ということ。

飲食店の開業にはリスクが伴う。開業時の設備投資は少なくとも数百万、多い時は数千万数億円のお金が動くことがある。

しかも、開業してすぐに黒字化するとは限らない。ランニングコストが当然発生する。設備投資の資金を回収するのにも何年もかかる。

それでも毎年多くの独立志望者が新しいお店を作り、消えていく。

多くの人は多額の借金を抱えたまま。

ある統計によると、飲食店を新規開業した場合、3年後までに残る数は30%。10年後まで残る数は10%。

圧倒的に多くの店が潰れ、消えていく。

 

しかしその反面10年どころか20年、30年と続く店がある。そして長期間繁盛店であり続ける店がある。

何が違うのか?

どうすれば、そんなお店を作ることが出来るのか?

そんな店にするには、自分には何が足りないのか?

 

●山の田舎にある超繁盛店

山口県岩国市玖珂という山田舎に、そんな疑問に答えてくれるかもしれない化け物のようなお店がある。

開店は昭和46年。今年で43年目。40年以上山口県と広島県西部で圧倒的な知名度と人気を誇り、今でも毎日多くのお客様が足を運ぶ。広島市では「18才になって免許を取って最初にするのはその店に車で行くこと」と言われている。

その店の名を「いろり山賊」と言う。

山口県の瀬戸内海側を走る国道2号線。周南市を越え車を走らせること約20分、岩国市街へ向かう道筋に「いろり山賊」はある。

木に囲まれた小山の麓に、忽然と現れるお城のような建物群。そしてノボリや巨大な看板と圧倒的な数の提灯で飾られた、一瞬何かのテーマパークかと錯覚するような異質な空間が目の前に広がる。

多くのお客様がまずはその異様な風景に度肝を抜かれる。そして自分が全くの非日常に足を踏み入れたことを否応なしに自覚させられる。自覚するのではない、自覚させられるのだ。

取材時は端午の節句間近。季節で変わる店外の飾り付けにまずは圧倒される

取材時は端午の節句間近。季節で変わる店外の飾り付けにまずは圧倒される



広大な敷地スペースは約2000坪。敷地内には古民家風の“いろり山賊”と“竈(かまど)”、さらにまるで戦国時代のお城のような“桃李庵”という3つの建物がある。それぞれの店内で食事が出来るだけではなく、建物周辺には近隣の山の裾野を利用した野外の座敷が立ち並ぶ。野点の茶席のように赤い布が敷かれた約2畳の座敷の上には炬燵が乗り、お客様は冬の寒い時期でも野外で山中の風景を楽しみながら食事が楽しめる。まさにそこでは山賊の砦で行われる宴会のような雰囲気が毎日味わえるのだ。

さらに夜は圧倒的な数の提灯が煌々と店内と周辺を照らし出し、昼は季節のイベントに合わせた巨大な看板や、これでもかとはためく数多くののぼり。ふと気がつくと空からシャボン玉が舞い降り、駐車場に置かれた太鼓をお客様がひっきりなしに叩き、お祭りの雰囲気を盛り上げる。

何もかもが過剰。

そして圧倒的。

表現に懐かしさも感じつつ、でも他にない新しさもある。

そして、なおかつ楽しい。

試しに、Facebookで「いろり山賊」を検索してみて欲しい。

戦国時代のお城を思わせる”桃李庵”

戦国時代のお城を思わせる”桃李庵”



いいね!の数はなんと9971(2014年9月2日現在)。チェックインは16387件。

そこでもまた、桁外れの数字が目を奪う。

 

●お客様がリピートする秘訣その① 感情の揺れを起こす

一体この店にお客様は何を求めているのか?なぜこれほどまでの圧倒的な認知と、集客が長い年月の間実現できているのか?

その答えの1つが、まずは季節の演出。

正月、雛祭り、子供の日、七夕、秋祭り、ハロウィン、クリスマス…。季節ごとのイベントを徹底して盛り上げる。

その一部を「いろり山賊」のHPで見ることが出来るのでここにリンクを貼って置く。

林の中に作られたミニ座敷にこたつ。野点のような野趣が楽しめる。

林の中に作られたミニ座敷にこたつ。野点のような野趣が楽しめる。



山賊の四季 http://www.irori-sanzoku.co.jp/module/albam.php?mode=2

見て頂くと分かるのだが、季節のイベントをちょっとした飾り付けで雰囲気を盛り上げるのではない。徹底してやる。その徹底ぶりにお客様は度肝を抜かれ、口コミし、さらには「次は何をする?」という期待感を込めてリピートする。

飲食店のリピートに必要なものは料理の美味しさだと言われる。それは間違ってはいない。しかし、料理ではなくエンターテイメントでもリピートは生まれる。あるいはお客様がリピートする理由に公式はない。

「あの店に行ってごらんよ。変なおっちゃんがいて面白いんだ~」そんなお店が話題になり、リピーターとファンを集めるという例を実体験として知っている人も多いだろう。

お客様の求めているのは感情の揺れだ。「面白い」「楽しい」「嬉しい」というプラス方向の感情の揺れ。感情が揺すぶられるとお客様は誰かにそれを伝えたくなり口コミする。そしてプラスの感情を揺すぶられると気持ち良くなりまた行きたくなる。

実にシンプルな法則がそこにはある。

ただ、ちょっとでは足りない。お客様が感動しきるまで徹底してやる。

そこまで徹底出来るかが、勝負だ。

 

●「いろり山賊」の自己定義

「いろり山賊」はそれを徹底している。そしてそれを無自覚ではなく、意識的に行っている。

取材時にお話をお聞かせ下さったのは(株)ファミリーレストラン大学の高橋航太専務

取材時にお話をお聞かせ下さったのは(株)ファミリーレストラン大学の高橋航太専務



「いろり山賊」を経営する(株)ファミリーレストラン大学の高橋航太専務は自社の業種を飲食業ではなく「情感産業」と定義していると話を聞かせて下さった。

「情感産業とは、まず外食産業の枠にとらわれないこと。お客様は食事をされに来られるのですが、食事だけを楽しまれるわけではありません。その時間のすべてを楽しまれようとします。だからこそ食べるだけではなく、店舗やその他の雰囲気の全てを含めて『お客様の目と心へのご馳走』をお届すること。そして、それを通してお客様に感動して頂くことを心がけて運営をしています」

「目と心へのご馳走」という言葉は、そのまま食事メニューにも当てはまる。
メニュー自体は決して尖った料理を出しているわけではない。むしろ「田舎の農家のおばちゃんが田んぼから上がって来てそのまま食べる」というコンセプトに沿った、素朴だが手作り感のある美味しさが感じられる料理ばかり。
しかし、秀逸なのは料理内容よりも、料理の見せ方の上手さだろう。

ピーク時は1日6000本が出る人気の山賊焼

ピーク時は1日6000本が出る人気の山賊焼



例えば、いろり山賊で一番人気の「山賊焼」(681円)は、創業者の高橋太一氏が考案した秘伝のタレを使い、若鳥を1本1本炭火でこんがり焼きあげた一品。味はどこか懐かしさのある素朴さ。だがこのメニューの面白さは、骨付きをかぶりつくことで山賊という言葉のイメージそのままの野趣を感じさせる点。まさに「いろり山賊」というお店のあり方を代表するような料理と言える。
「GWのようなピークの時は1日5000から6000本が出ます」というから驚きだ。

そして山賊焼と並ぶ人気メニューである「山賊むすび」(508円)は、普通のおむすびの4倍はあろうかというボリュームに度肝を抜かれる。
さらに日本古来の神社仏閣の屋根組みをイメージさせる巨大な木の蓋を乗せて提供される「山賊うどん」(605円)。これもまた、出てきた瞬間にお客様が「何これ?!」とびっくりしてしまう遊び心のある器使いだ。

 

●お客様がリピートする秘訣その② 細部にわたるコンセプトの徹底

通常の4倍はあろうかという山賊むすび。インパクトに圧倒される。

通常の4倍はあろうかという山賊むすび。インパクトに圧倒される。



この山賊焼き、山賊むすび、山賊うどんという定番メニューはその見せ方の上手さもポイントではあるが、その奥にはさらに大事な要素がある。そこもまた「いろり山賊」が圧倒的な認知とリピートを作っている要因の1つ。

それは料理の内容や表現まで含めてお店のコンセプトをきちんと表現し切っていること。

「いろり山賊」というお店はその名が示す通りに山賊が山の砦で仲間達と毎日のように宴を繰り広げている、そんな情景をベースに非日常的なシーンを演出していると言って良いだろう。そこで出される野趣あふれる山賊焼、無骨な大きさの山賊むすび、びっくりする器使いの山賊うどん、そのどれをとってもその演出を崩さない、お客様の感じている非日常を壊さない表現がそこにはある。

お客様は「いろり山賊」が作る非日常に酔いしれ、夢を見る。だから、また行きたくなる。

夢が覚めてしまったら残るのは興醒め。

器使いでお客様にサプライズを作りだす山賊うどん

器使いでお客様にサプライズを作りだす山賊うどん



そうさせない細部への注意は、ディズニーランドにも通じるリピーターとファン作りの秘訣と言っても良い。

 

●利益をお客様に還元して成長する

こうやって書き進めると「いろり山賊」の凄さばかりが強調され「そうはいってもうちの店じゃ出来ないよ」という人も出てくるだろう。

しかし「いろり山賊」が最初から今の形になったわけではない。

「今では2000坪ある玖珂店ですが、開店した昭和46年当初は、民家風の建物1つだけでした。そこからコツコツと広げていった結果が今の山賊です。季節の飾り付けも20年前に始めたことですが、年間でスケジュールを組みながら全てスタッフの手作りで作っています。今では『今度はどんな飾り付けをするのだろう?』と楽しみにして下さっているお客様が多くいらっしゃいます。さらに、私共は利益を必要以上出さないことを心がけています。利益を出したとしてもそのお金はお店作りへ還元し、お客様に感動して頂くことに還元していくのです」とは高橋専務の言葉。

大事なことは、今目の前にある自分のお店でお客様にどんな夢を見せるかを設計すること。そして夢を見させる工夫を徹底して行い、興を醒めさせない細心の注意を払うこと。

お客様は外食を楽しみに来られている。その気持ちに応えて楽しさをクリエイトすること。

それは食という人間の官能に直結した要素を持っている飲食店だからこそ出来る、クリエイティブな作業なのだ。

 

●世界観をあなたの店に持たせるために

それでは、そのクリエイティブな作業をどうすれば実現出来るかを「いろり山賊」を例に分析してみよう。

「いろり山賊」が持っている要素を箇条書きにするならば

①明確なコンセプト

・「山賊の砦での宴」という分かりやすいコンセプト

②豊かな表現

・四季折々のイベントを徹底的に盛り上げる過剰なまでの演出力

③細部へのこだわり

・料理の盛付け方から器使いまでコンセプトに沿った細部の作り込み

④スタッフの楽しさ

・季節のイベント演出などをスタッフが全員で手作りで行う楽しい雰囲気

⑤お客様への気持ち

・「目と心へのご馳走」「利益をお客様への感動に還元する」という表現の中に込められたお客様への気持ち

⑥確かな自己定義

・自らの業種を「情感産業」と明言する自己定義

 

この①から⑥の順番は深さにある。

①から③までは表面的な目に見えるものだが、④から⑥までは目に見えない。多くの飲食店経営者は目に見えるものに囚われる。しかし、目に見えるものを突き詰めた奥には目に見えないものがある。その目に見えない部分までもが全て循環することでお客様に夢を見させる設計が可能になり、お客様を熱狂させ、虜にする。

最初は形から入るのも良いだろう。しかしその形を自分のものとし、お客様への気持ちを自分の表現として確立した時、そこに長く続くお店が立ち現れるのだ。

世界観

●超繁盛店になる可能性は、どんな店にもある

「いろり山賊」はすでに圧倒的な存在感を示す伝説の店だ。

しかし、次の伝説の店を生み出すのは、あなたかもしれない。

お客様の「楽しい」「面白い」「嬉しい」という感情を満たし切る店を作るならば、そしてその奥にある「自らが何者であるか?」という問いに対する答えを見出すことが出来るならば、そうなる可能性はある。

その可能性はどんな店にもある。

それを生み出せるかどうかは、経営者のあなたの仕事なのだ。

 

(島瀬武彦)

店舗データ

店名 いろり山賊 玖珂店
住所 山口県岩国市玖珂町1380-1
アクセス 九州方面からは山陽自動車道玖珂インター出口右折
国道2号線交差点右折後約1Km
電話 0827-82-3115
営業時間 山賊 9:30~翌5:00  竈 10:00~24:00  桃李庵 10:00~24:00
定休日 山賊:火曜日 12/30・31  竈:水曜日 12/30・31  桃李庵:木曜日 12/30・31
坪数客数 2,000坪 テーブル数約120卓
客単価 1500円
運営会社 株式会社ファミリーレストラン大学 代表取締役 高橋貫太

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