私自身の話で恐縮ですが、私と飲食店の関わりはプロフィールにも書いているように、両親の始めた小さな喫茶店を2代目として継いだ所から始まりました。
その店は山口県山口市徳地と言う、本当に山の中の田舎にあります。
20年前には1万2千人いた人口が、今では6千人。過疎化率日本一にもなったこともある僻地での経営は、とにかくお客様が来ない。
当たり前の話ですが、でも最初はそんな当たり前のことも分からず「なぜお客様が来ないのか?」「どうやったら来て頂けるのか?」を試行錯誤し続けました。
その中で、地域密着という考えを捨て、より広い商圏でお客様の動きを考え、その動きの中でわざわざうちのお店を目指して来て頂けるために必要なことは何かを考え実行したのが10年前。
その結果、何とか多くのお客様が来て頂けるお店に成長させることが出来ました。
それは山口県の小さな店の話ですので偉そうには言えませんが、その経験を通して思うのは「立地というのは捉え方次第」ということです。
実際に福岡にあっても名の通った有名店が立地的に決して一等地と言えない場所にあるのは、皆さんもご存じではないかと思います。
あるいはその店が出来ることで悪い立地が良い立地に変わってしまった例も幾つもあります。
実は、昨日と一昨日取材でお話を聞かせて頂いたお2人の経営者の方の立地に対する考え方が非常に面白く、それに触発されてこの文章を書いています。
その方達のお話は改めて記事にしますが、その一部を少しだけ書くと
「立地はどこでも良いんです。死んだ場所と言われている所でも良い。お客様は自分達が集めるから」
「場所は分かりにくい所をあえて狙いました。お客様の”お店に来るまでの体験”もデザインしたかったから」
どうでしょう?面白いと思いませんか?
もちろん最初の方の「立地はどこでも良い」というお言葉の前にはその方独自の条件があってのことですが、お2人共に共通しているのは立地の有利不利を常識的には判断していないという点です。
それよりもきちんと考えた店作りをすることでお客様がわざわざ来て頂ける店にすること。そのことの方をより重視されていると感じました。
その方が強い店になる。
ある意味、当然の考え方だと思います。
もちろん、立地というのは飲食店における重要はファクターであることは確かです。
良い立地を押さえてしまった方がビジネス的な効率が良いのは事実でしょう。
しかし、ビジネス的な効率の良さだけで語れないのが飲食店の面白さです。
福岡県外、特に東京の飲食店経営者とお話しする中で良く出てくる言葉があります。
「福岡には出店したいけど地場の飲食店が強いから躊躇っています。でも勉強になるので福岡は注目していますし、視察にもよく行ってますよ」
私自身が東京の飲食店の動向を拝見させて頂く中で感じるのは、ちょっとビジネス的な思考に偏りすぎているのではないかという点です。
もちろん、東京にも良いお店は沢山あります。
「これはすごい」と思う店も多くあります。
しかし、全体としてはやはりビジネス的に考えすぎている傾向があるように感じていますし、その感覚で入ってくると確かに福岡は難しい。
あるいは”地方は”難しいと言っても良いかもしれません。
地方の飲食店はビジネスというよりも商売として、泥臭く、でも尖った仕事をしています。
その泥臭く尖った部分が東京の方々には新鮮に映っているからこそ、東京の飲食店経営者が福岡を注目しているだろうと思いますし、そこが地方の飲食店の強みです。
その強みは忘れずに商売して欲しい。
偉そうに言える立場ではないかもしれませんが、そう思っています。
島瀬武彦
1971年7月20日生まれ。山口県山口市出身。学習院大学フランス文学科中退後、家業の喫茶店の2代目として飲食店経営に関わる。山口県山口市徳地という山の中の田舎の立地に苦戦する中で、神田昌典氏が主宰する「顧客獲得実践会」に参加。通販業界が使うダイレクトレスポンスマーケティングの手法を飲食店の集客に応用することで売上を劇的に改善。2004年よりマーケティング・戦略コンサルタントとして活動。2014年よりフードスタジアム九州編集長を務める。