プロフにも記載していましす、このコラムでも少し触れたことがありますが、私は山口県の山奥にある喫茶店の2代目として働き始めたのが飲食店に関わった最初です。
小さなお店ですが、それまで飲食経験なしで始めたので最初は分からないことだらけ。さらに年数が経ち経営に本格的にタッチするようになっても分からないことが逆に増えるばかりで、右往左往試行錯誤の連続でした。
飲食店でお客様に来てもらうためには何をすればいいのか?
来てもらったお客様を満足させるには何をすればいいのか?
お客様にリピートしてもらうには何をすればいいのか?
そもそも飲食店で利益を出そうと思ったら何をすればいいのか?
繁盛店のオーナーの方からすると「そんなこと」と思われるようなことばかりかもしれません。しかし、上に書いた疑問を本当に分かって飲食店を経営出来ている方も実は少ないかもしれません。
疑問ばかり膨らむなかで勉強も色々しました。飲食の専門誌を何誌も年間購読して、そこに出ている繁盛店のやり方やメニューなどを見て自分の店で出してみたり。
しかし、その殆どは効果がありませんでした。
なぜ効果がなかったのかは、今なら分かります。
飲食店はお店が成り立っている前提条件が1店舗1店舗違います。先ずは立地の違い。立地が違えばお客様の市場性も違います。さらに経営者が違えばそのお店の目指しているものも違います。センスも違います。
例えば隣合せで同じ店があったとします。そこで2つの店がやっていることが全く同じであったとしても2つともが同じように繁盛することは現実にはないでしょう。なぜならば隣合せであっても運営している人が違えばその時点で前提条件が変わります。
その中で私自身が「ああ、そういうことなのか」と分かった瞬間があるとするならば、それはお客様がなぜ自店へ足を運ぶのか?が分かった時。いわゆる「来店理由」が掴めた時です。
お客様の来店理由にはそのお店の前提条件がもろに反映されます。
郊外のお店ならば郊外のお店を使うだけの理由がお客様にあり、都心のお店であればそこでの理由がやはりあります。同じような立地であっても「楽しむために行く店」「美味しいものを食べに行く店」「落ち着きたいから行く店」「とりあえず安くお腹を満たしたいから行く店」「他に良い店がないから行く店」などなど、お客様の来店理由は、そのお店の持っている要素に左右されて大きく変わります。
私が繁盛店のやり方やメニューをそのままパクっても上手くいかなかった理由は、自店の前提条件が自分で分かっていなかったこと。そしてその前提条件の中でお客様が来店される理由が分かっていなかったからです。繁盛店のやり方をいくらパクってもそれはそのお店の前提条件があって成立していることであり、それがそのまま自店に当てはまるかは全く別物。さらにそれがお客様の来店理由と噛み合っていなければ、そこで何をしてもお客様にとって「良く分からない店」になってしまうだけなのです。
さらにお客様の来店理由というのは分類的に語れるようで、実はそんなに簡単に理論化出来るものでもありません。もし理論化したとしてもそこで生まれる店は「繁華街の路面店で、20代の女性が好むおしゃれな内装デザインの、今が旬の食材を使ったイタリアン」と言った定型文的なお店です。
それはそれで一瞬は流行るかもしれませんが、長続きするかどうかは全く別なのは皆さんも分かると思います。
長続きするお店には、自店の前提条件から生まれるお客様の来店理由を理解した上で、それをさらにブラッシュアップし続けることで独自の世界観を作り上げた店です。
それはLEGENDで紹介した山口県の「いろり 山賊」であったり、前回のコラムで紹介した仙台の「元祖炉端」であったり。
「いろり 山賊」 http://kyushu.food-stadium.com/legend/649/
他店が簡単に真似出来ないような独自性がありつつ、かといってエキセントリックな「変な店」でもなく、お客様の気持ちに寄り添う心地良さと、お客様を喜ばす姿勢が全面に見え、お客様の笑顔であふれる店。そういう独自の世界観を持ったお店が九州にももっともっと増えて行くならば、九州の飲食はもっともっと面白くなるはずです。
とはいえ、いきなり「世界観」と言ってもピンとこない方も多いと思います。
だからこそもう一度「なぜお客様は自分達のお店を選ばれているのか?」を考えてみませんか?
その答えの中に色々なヒントがあるはずです。
島瀬武彦
1971年7月20日生まれ。山口県山口市出身。学習院大学フランス文学科中退後、家業の喫茶店の2代目として飲食店経営に関わる。山口県山口市徳地という山の中の田舎の立地に苦戦する中で、神田昌典氏が主宰する「顧客獲得実践会」に参加。通販業界が使うダイレクトレスポンスマーケティングの手法を飲食店の集客に応用することで売上を劇的に改善。2004年よりマーケティング・戦略コンサルタントとして活動。2014年よりフードスタジアム九州編集長を務める。