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編集長コラム

仙台訪問記~「元祖炉端」に古くて新しい飲食のエッセンスを見る


12月2日・3日と仙台へ行ってきました。

仙台ではスタイルスグループの佐々木社長、フースタ東北の澤田てい子編集長、さらに澤田さんにご紹介頂いたカフェクリエイト八尋社長、本当にお世話になりました。とても有意義な経験が出来ました。ありがとうございました!

実は佐々木社長から「仙台と福岡は似ていますよ」と聞いていましたが、実際に行ってみると確かに似ていると思います。

目の前に海があり、後ろには山があり、良質な食材が当たり前のように手に入る100万都市。人の動きも東京のようにギュッと濃縮されたような密度があるわけではなく、それでも100万都市としての市場規模はきちんとあり、都会的な要素と田舎的な要素がバランスよく配置され、洗練されたものへの理解と土臭いものへの理解も両方が違和感なく共存している。

それは福岡にも仙台にも共通した要素だろうと思います。

その中で、福岡と仙台の違いがあるとすれば、人の気質の違いでしょう。

福岡の人は基本的に「福岡LOVE」な人が多く、それが行き過ぎると「どうだ福岡は凄いだろう!!」という自己顕示欲に近いものになってしまう傾向がありますが、仙台の人はもっと柔らかい。郷土を愛しながら、それを押し付けない奥ゆかしさというか優しさというか、そんな「柔らかな温かさ」を仙台の方々から感じました。

そして今回訪れた飲食店の殆どでサービス面でのマイナスをあまり感じることがなく、だからと言ってサービススキルが高いというものとは違い、サービススタッフの1人1人が個性的でありながら、同時に人に接するのが好きなんだという気持ちが伝わる、そんなサービスをされるスタッフやオーナーさんが多かった印象です。

それはもしかすると東北の地震の影響なのかもしれません。

生きるか死ぬかという本当の厳しい経験をしたからこそ持ちえる優しさを、仙台の飲食店の皆さんの心の中に垣間見た気がしています。

さて、そんな仙台で2日に渡って幾つものお店を回らせて頂きましたが、その中でも特に面白かったお店が「元祖炉端」です。

日本で最初に炉端を始めた店ということですが、このお店の面白さを言葉で説明するのは難しいかもしれません。日本で一番古い炉端であると同時に、今の時代でも新しいと感じさせる「体験型エンターテイメント」の要素を持った、そんな古さと新しさが不思議な融和を果たしているお店が「元祖炉端」でした。

障子に囲まれた店内に入ると、畳が敷かれた中央のスペースの真中に囲炉裏があり、その囲炉裏を囲むようにコの字型にカウンター席が配置されています。通常の炉端のイメージですと中央の囲炉裏で焼いたり煮たりした料理がお客様に提供されるのですが、「元祖炉端」では中央の囲炉裏におしゃべりなおばちゃんがデーンと座り、その炉端でお燗をつけながらお客様と会話しつつ注文を取ったり、お酒を出したり、会計をしたりしながら、とにかくこのおばちゃんが喋りまくります。

このおばちゃんのトークが生みだす世界観にいつのまにか巻き込まれ、気がつくとお酒を飲みながらライブで演劇を見ているような楽しさと、その場にいる全員が同じ空間を共有する不思議な一体感が生まれます。

実はこのコの字型に配置されたカウンターでそのお店の生み出すストーリーを演劇を楽しむように感じてもらうという趣向は、ニューヨークの「シェフズテーブル アット・ ブルックリンフェア」や「ブランカ」といったミシュラン星付レストランにも共通した要素だったりもします。

ただしニューヨークのそれらのお店の中央にあるのはキッチンで、そこで生み出される料理を主役にしたストーリーを見せるのですが、「元祖炉端」の主役はこのおばちゃん。トークだけではなくお燗をつける手際であったり、燗のついた徳利を櫓に乗せてテーブルに出す動きの鮮やかさや、やはり櫓を使ってお客様と会計のやり取りをする動きの面白さなど、細部の部分で”芸”を感じさせる楽しさがあります。

さらにこのおばちゃんのトークに巻き込まれると、おばちゃんの指示に従って店内にある神棚にお客様全員が「パン、パン」と拍手するという不思議な光景が立ち現れたりもします。

こうやって書くと、飲食店ではないような印象になるかもしれませんが、間違いなくここは飲食店です。お客様を楽しませ、気持ち良くさせる仕掛けに満ちた古くて新しい飲食店の形がここにはあります。

「元祖炉端」にはフードスタジアム九州LEGEND第1回で取り上げた「いろり 山賊」にも通じるクリエイティブなエッセンスがあるのです。

いやいや、仙台恐るべし。

こういうお店、やはり探せばまだまだありそうですね。

素晴らしいお店をご紹介いただいた佐々木社長、本当にありがとうございました!

「元祖炉端」【画像左】囲炉裏を中心にコの字型にカウンター席が配置された店内【画像右】この料理の内容が実はお通し。お通しだけで充分にお酒が楽しめます。

「元祖炉端」【画像左】囲炉裏を中心にコの字型にカウンター席が配置された店内【画像右】この料理の内容が実はお通し。お通しだけで充分にお酒が楽しめます。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




島瀬武彦島瀬モノクロ横

1971年7月20日生まれ。山口県山口市出身。学習院大学フランス文学科中退後、家業の喫茶店の2代目として飲食店経営に関わる。山口県山口市徳地という山の中の田舎の立地に苦戦する中で、神田昌典氏が主宰する「顧客獲得実践会」に参加。通販業界が使うダイレクトレスポンスマーケティングの手法を飲食店の集客に応用することで売上を劇的に改善。2004年よりマーケティング・戦略コンサルタントとして活動。2014年よりフードスタジアム九州編集長を務める。

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