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九州の食材

【九州の食材】ななやま農園・武藤智英氏が作る七山たまご


鶏舎

唐津市七山の山の谷あいにある鶏舎。養鶏場としては決して大きくはない。



「営業はほぼ飛び込みです」

農家が販路開拓のために飛び込み営業をする話などそうは聞かない。しかし、それをあっけらかんと笑いながら当たり前のように言い放つ「ななやま農園」の武藤智英氏は、農家とは思えないエネルギッシュな雰囲気を持つ人だ。

福岡から糸島に入り北に約30分車を走らせると唐津市七山(旧七山村)に入る。そこからさらに山道を15分ほど登った先の山の谷筋にある大屋敷という集落に武藤氏が経営する「ななやま農園」はある。

「ななやま農園」の作る食材は卵。「七山たまご」の名前でスーパー、飲食店、旅館などに卸し、福岡市内だけでも約40社、佐賀県内の取引先を含めると100社にのぼる取引先を持つ。取引先は全て直販のみ。その開拓を「配送ルートに合わせて目についたお店があれば飛び込んでお話をさせて頂く中で広げていきました」というからやはり並のバイタリティではない。

平成16年に新規就農した「ななやま農園」の武藤智英氏。

平成16年に新規就農した「ななやま農園」の武藤智英氏。



「飛び込み営業はダメ元ですから。私共の卵をどのお店が評価して頂けるかはこちらでは分かりません。だから、まずは『当たって砕けろ』の気持ちで話に行きます。」

「ななやま農園」は新規就農で平成16年に創業。元々は「海が好きで」若い頃はヨットの選手として世界選手権に出場した経歴も持つ。農業を始めたきっかけは、ちょうど仕事を辞めて手が空いていた時に、唐津市で農業を営む親戚から、「ちょっと手伝ってくれ」と声をかけられたことから。そこからさらに唐津市鏡山の「ポンポコ村ベコニアガーデン」の立ち上げにも関わり経験を積む中で農業を志すようになる。

しかし、元々実家が農家でもなく土地もない武藤氏が農業をするためのハードルは高く、何をするかに悩む中で行政とも相談しながら決めたのが養鶏業。養鶏場に決めた理由はスタイル。「回っていれば仕事は午前中に終わります。午後からは自由。そのスタイルが自分に合っていると思いました」と。それだけを聞くと楽をしようとしているように聞こえるがそうでもない。「そう

鶏は全て放し飼いで育てる。

鶏は全て放し飼いで育てる。



は言っても農業は手をかけようとすればどこまでもかけられますし、サボろうと思えばいくらでもサボれます。結局は自分に返ってくるので手は抜けません」

と、武藤氏ははにかんだ笑いを見せてくれた。

「私は農業半分商売半分と思っています。私のところでは市場に出すことも農協に出すことも出来ないので、その中で卵をきちんと販売していくことを考える必要があります。その中で少量生産でも付加価値の高い卵を、その価値の分かって下さる取引先に売ることを考えています」

「七山たまご」は卸で1個50円。決して安くはない。それでも前述のように多くの取引先を持つことが出来ているのは、やはり卵の品質の高さ。質の高い卵を生産するためのポイントは「飼育方法・餌・環境の3つ」と武藤氏は教えて下さった。

人口の配合飼料は一切使っていない鶏は健康そのもの

人口の配合飼料は一切使っていない鶏は健康そのもの



その言葉通りに「ななやま農園」の鶏は全て放し飼い。大規模な養鶏場のような1匹ずつ籠に入れて管理する工場的なスタイルは「鶏にストレスを与えるから考えていません」と。さらに餌は工業的に作られた配合飼料は一切使わず、遺伝子組み換えをしていないトウモロコシ・大豆・米などを与えている。

これらの餌は、当然コストはかかるがそれでも卵の質に直結する要素なだけにこだわっている。

さらに環境。唐津市七山大屋敷という集落は山の谷に位置するだけに風通しが良く、夏でも涼しい。夏の暑さは鶏にとってもストレスになる要素だが、この環境だからこそ鶏を放し飼いでもストレスなく健康的に育てることが出来るのだ。

そうやって育てられた元気な鶏から生まれる「七山たまご」には臭みがなく、卵かけご飯など生

巣箱の中の卵。1700羽の鶏が1日1300個の卵を産む。

巣箱の中の卵。1700羽の鶏が1日1300個の卵を産む。



で食べるのが一番美味しい。さらにコシが強く玉子焼やケーキのスポンジに使うと通常の卵とはふくらみ方が全く違うと言う。

現在飼育している鶏は1700羽。そこから毎日1300個の卵が採れる。スタッフは武藤氏の他には奥様と2人のパートさんのみ。自分たちの手の届く範囲できちんと手をかけながら高品質の卵を生産する。小さいが、その小ささも含めて誇りを感じるスタイルだ。

武藤氏にこれからの抱負を聞くと「ちょっと最近忙しかったんでねぇ、少しリラックスしたいです」といたずらっ子のような笑顔で答えてくれた。ただ、その言葉の背景には体に無理をさせないという意味以上に、自分が無理をすることで卵の品質維持が出来なくなることの懸念も含まれていると感じられた。

山奥の小さな養鶏場。だが小さくともプライドを持って品質作りに取り組み、お客様を自ら動いて作っていく。その「ななやま農園」のスタイルには、これからの農業の在り方の1つのモデルがあるように思える。

店舗データ

店名 ななやま自然農園
住所 佐賀県唐津市七山大屋敷
電話 0955-58-3077

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