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九州の食材

【九州の食材】パクチー 佐賀県武雄市 江口農園 ~マーケティングする農家


 

 

サブ1

 

「パクチーを作ろう」という声が上がった時、最初はピンとこなかったと江口農園の江口竜左氏は言う。

それは武雄市の若手農家が集まる武友会のメンバーと共に武雄市が推進する地域ブランド作りの話合いに参加した時のこと。
特に誰がというわけではなく話し合いを進める中で自然に候補に浮上してきたのがパクチーだった。「最初はパクチーと言われてもピンときませんでしたね。そもそもパクチー自体知りませんでしたから」と。

しかし、調べてみると面白い。パクチーは中華やエスニックの食材として使われることが殆どだが、必然的に元々日本にはない作物。だから流通量自体が少なくスーパーで売られているものも殆どが外国産で鮮度も低く同時に単価は高い。しかし、パクチーという作物は不思議な魅力があるようで独特の香りから癖になると病みつきになってしまう。だからだろう日本中に熱いパクチーファンがいる。さらに有害な物質を体の外に排出するデトックス効果の高い食材でもあり、美容にも効果的。パクチーのことを知るうちに「これは行けるのでは?」という気持ちが江口氏の中で高まっていった。

江口竜左氏は今年で26歳。まだ若い農家だ。
若さゆえだろう、その思考は良い意味で軽やかで柔軟だ。

元々江口家は祖父の代からの農家である。高校卒業後「タキイ園芸専門学校」に進学し農家になることを決めた江口氏だったが、息子と歩みを合わせてJA職員だった父達郎氏も就農し、先にきゅうり栽培を手掛け、息子が就農するための環境を整える。父にしても息子にしても「江口家は祖父の代からの農家だった」という想いがあったからこその就農だった。しかし彼らの中には「農家はこうでなくてはならない」という偏った思考はない。新しい作物に対するチャレンジに対しても「1つの作物が作れるようになれば、そこをベースに次のことをやればなんとかなります。先ずはやってみることです」とこともなげに語る。

左がJA職員から就農した父・達郎氏。右が江口竜左氏。

左がJA職員から就農した父・達郎氏。右が江口竜左氏。



 

サブ2

 

そしてパクチーである。
ある意味ニッチすぎると言っても良い作物だが、そこに可能性を感じた江口氏の感覚の底にはマーケティング的な思考が働いている。
もちろん、江口氏自身はマーケティングなんて知らない。しかしパクチーと言う小さな(同時に競合の少ない)市場に目をつけ、そこを足がかりに市場を切り開こうとする感覚はマーケティングそのものと言っていい。

事実、パクチーを始めたのはわずか2年前。武雄市のバックアップがあったとはいえ、わずか2年で次々とメディアに露出し、「パクチーハウス東京」などの東京の飲食店との関係が生まれ、あの「OISIX」との契約が成立するまでに至った。

その結果は武雄市と武友会が行った商品戦略の確かさの証明でもあり、パクチーに可能性を感じそこに情熱を傾けた江口氏のマーケティング感覚の勝利でもあったと言える。

江口農園のパクチー。夏場に弱いパクチーだが江口農園では通年栽培を実施している。

江口農園のパクチー。夏場に弱いパクチーだが江口農園では通年栽培を実施している。



 

しかし、「マーケティングする農家」の動きはそこでは止まらない。
現在、江口農園がパクチーの続いて取り組み始めた作物は空芯菜やバジルなどの中華・エスニック系の食材になる野菜達。それらはパクチーを通して生まれた飲食店との関係の中で彼らが必要している野菜を聞き出し、それを供給することを考えて始めたもの。
お客様の生のニーズをとらえ、そこに必要な商品を供給する。
言葉にすると当たり前のことだが、それを実行している農家は実は少ない。

今後はさらにパパイヤの栽培も計画中。これもまたお客様の問い合わせから生まれた企画だが、パクチーを切り口にアジア系の飲食店との関係を強め、彼らが必要とする野菜を供給することで「アジア系野菜なら江口農園」と言われるポジションの構築を目指している。

空芯菜の栽培場。炒め物に人気の高い中国野菜だ。

空芯菜の栽培場。炒め物に人気の高い中国野菜だ。



 

パクチーそのものにしても、江口氏の顧客感覚は明確である。

パクチーが好きな人、それが江口氏の感じている自分達のお客様であり、だからこそ江口農園のパクチーは「香りが苦手な人でも食べられるように」といった配慮はしない。
それよりも好きな人が望む「香りの強いパクチー」を作ることに注力し、必然的に根の太い元気で力強いパクチーを作ることに心を砕いている。
そこには余計な小手先を考えない芯の真っ直ぐさが伺える。

 

サブ3

 

「自ら発信し、ファンになってもらい、購入してもらう」

江口氏は江口農園のスタイルをそう語ってくれた。
パクチーという話題性のある作物に注力し、その話題性の中から発信を行い、その発信の中で表現される江口農園あるいは江口氏自身の姿勢に共感しファンになってくれた人に買ってもらう。
それを実践し結果が生まれている現在、そう語る江口氏の表情にはほのかな自信が宿り始めている。

さらに、自身の農家としての歩みは「素晴らしい人達に支えてもらってきた」と。
先に就農して環境を整えてくれた父、チャンスをもたらしてくれた武友会、活動の幅を広げてくれた行政との関係性、農家として素晴らしい技術を惜しみなく教えて下さった先輩農家、そして何よりも武雄という街に住む人々。
「武雄市はご覧の通り何もない街です。しかし、武雄市は地域コミュニティの風通しが良く、楽しい人たちが集まってきます。そこが武雄市の良いところですよ」と江口氏は誇らしげに語る。

パクチー農家としてはまだ始まったばかり。
課題も多い。特に夏に弱いパクチーを良い状態で通年生産し続けることが今後の課題だ。
しかし元々きゅうり農家として実力を蓄えた江口農園にとっては決して越えられない壁ではないと江口氏は考えている。そこが「1つの野菜が作れるようになったら、それをベースに他の野菜も作れるはず」と考える江口氏ならではの思考だ。
そして、今年の11月には1反(約1000㎡)の農地にパクチー専門のビニールハウスを建て、さらなる飛躍を期する。

26歳の江口竜左氏の農家としての冒険は、今始まったばかりである。

パパイヤの苗木。顧客のニーズを掘り起こしながらアジア系食材なら江口農園と言うポジションの構築を目指す。

パパイヤの苗木。顧客のニーズを掘り起こしながらアジア系食材なら江口農園と言うポジションの構築を目指す。

店舗データ

店名 江口農園
住所 佐賀県武雄市北方町大字芦原244
アクセス 長崎道武雄北方ICより国道34号線を東へ車で10分。JR佐世保線北方駅近く。
電話 0954-36-3490

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