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【ミシュラン掲載店を訪ねて Vo.2】 中洲 割烹 味美~本質的な博多らしさを料理に落とし込む


◆“料理少年”があこがれた料理の世界

実家が営んでいた宝飾店。
その店内にはお客様のために「婦人画報」が置かれていた。
その「婦人画報」に掲載されている日本各地の飲食店の美味しそうで美しい料理の数々に、うっとりとした思いでページをめくる。
それは少年時代の河原畑豪二氏の思い出である。

あるいは毎週土曜日の夕方放映されていた「料理天国」に釘付けになり、そこで紹介される日本各地の料理や世界各地の料理に想いを馳せる。

さらには「食べることが大好き」と言う通りに親に連れられ子供の頃からあちらこちらの店を食べ歩き、やはり実家の商売で付き合いのあったホテルの支配人に案内されホテルの厨房を見学した際には、雑誌やテレビに出て来るような美しい料理が生み出される現場に興奮。

そんな“料理少年”であった河原畑氏が料理の世界へ足を踏み入れることは、まぎれもなく必然であったろう。

河原畑氏は昭和43年生まれの現在46歳。
中洲4丁目に「割烹 味美」を開業したのは30歳の時。
あれから16年が経つ。

「味美」をオープンする前に河原畑氏が修業したのは京都の「割烹 さか本」。
こちらもまたミシュランガイド関西で1つ星を獲得している名店だ。
「さか本」では6年間を修業に費やし京都の和食の基礎を叩きこまれる。
「普通はね、1つのお店は3年ぐらいで修業を終えて次の店に行くんだけど、自分は留年ばかりでねぇ。結局6年もいたんだよ」
そう笑いながら当時を振り返る河原畑氏ではあるが、時間がかかったからこそ逆にしっかりした技術の裏付けが生まれたともいえる。
その技術は今も「味美」の美しい盛付けに活きている。

その後、東京・銀座で京料理を出していた「天野」に移籍。そこで関東の様々な食材と、それに合わせた料理法を学び、さらには淡路島のホテルの立ち上げにも参加し商売をする上での“準備”の大事さを学びながら、着々と独立の準備を進める。

そして満を持してオープンさせたのが「割烹 味美」である。

【画像左】料理少年だった河原畑氏が30歳の時にオープンさせた「割烹 味美」は中洲4丁目の那珂川を望むビルの1階に佇む。【画像右】「味美」のお造り。その美しい佇まいに河原畑氏が「さか本」で過ごした6年の修業の成果を感じることが出来る。

【画像左】料理少年だった河原畑氏が30歳の時にオープンさせた「割烹 味美」は中洲4丁目の那珂川を望むビルの1階に佇む。【画像右】「味美」のお造り。その美しい佇まいに河原畑氏が「さか本」で過ごした6年の修業の成果を感じることが出来る。



 

◆博多らしさを本質的に表現した料理

「味美」の料理、そこには河原畑豪二という料理人の“生き方”が深く深く織り込まれている。

青臭い言い方かもしれないが
「自分が何者であるか?」
「なぜ自分がこれをやるのか?」
その答えを1つ1つ確かめるように生み出される料理。
それが河原畑氏の料理なのだ。

例えば「味美」の看板メニューとなっている「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」。
数種類の魚の骨をじっくりと煮込んで取った濃厚な濁ったスープに、旬の白身魚をくぐらせてタレなしで頂くこの料理は、その濃厚な味わいに一度食べたら病みつきになる逸品である。
しかし、通常「濁ったスープは味噌汁だけ」と言われる和食の世界においては、この料理は異色中の異色の料理とも言える。
それをあえてお客様にお出ししている背景には、受けを狙ったわけでも、大胆さをアピールするわけでもない。それは「博多で自分が割烹をやる意味」を追求した先に生まれた河原畑氏にとっての必然の選択がそこにあったのだ。

河原畑氏が修業した京都。そこは和食の世界では今でも最先端の街であり、新しい料理や新しい技術に対する情報が溢れている。
あるいは京都の次に仕事をした東京。そこは日本一の物流集積地であり、東京で手に入らない物はない。

それに対し博多である。
博多の良さを河原畑氏は「食材がふんだんに使えること」と即答する。
海に面しすぐ背後には山を控える博多は、魚・野菜・肉と多くの食材が集まる「大きな地方都市」である。

ただし、その食材の1つ1つが決して最高級と言うわけでもないのも博多の特徴かもしれない。
例えば、野菜に関しては本来は痩せた火山灰地の方が野菜は旨くなる。その意味では火山起源の関東ローム層が広がる関東圏の方が野菜の栽培地としては優れている。

それでも博多近辺には頑張って野菜を作っている人達がいる。そういう人達を応援する意味を込めて地元で手に入る食材を“特別な料理”に変えて行く。
それが料理人の仕事だと河原畑氏は言う。

地元の食材を、自分の料理人としての経験を通して素晴らしい料理に変えていく。
それが「土地に可愛がってもらう」ということであり、そこに「自分だから出来る仕事」があると河原畑氏は言うのだ。

さらに「味美」のある中洲という立地。
そこには地元博多っ子のお客様もいれば、観光で福岡に来られた人達もいる。さらには海外からのお客様も来る。
それら多様なお客様達に「博多らしさ」を感じて頂こうと考えた時に生まれたのが「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」である。

地元で手に入る食材を使いながら、自分自身の料理人の経験を活かし、さらに気取らず、飾らず、寛げる、そんな博多の雰囲気を味わってもらいたい。
その想いの中で生まれたのがあえて濁ったスープを使う「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」であり、その料理の中に「この方が美味しいし落ち着きますよね?」という博多らしいメッセージを込められているのだ。

「味美」名物の「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」。和食としては大胆なアプローチだが、その背景には河原畑氏の料理人としてのあり方がそのまま込められている。

「味美」名物の「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」。和食としては大胆なアプローチだが、その背景には河原畑氏の料理人としてのあり方がそのまま込められている。



 

◆和食の世界の入り口となる「博多の割烹」を目指して

このように書き進めると、河原畑氏から求道者的なイメージばかりを受けるかもしれないが、実際の河原畑氏は、謙虚で優しさにあふれた人間味を感じることが出来る人物である。

河原畑氏は自分のことを「自分は本当にだらしない人間なんでね」と謙遜して笑う。
だが、だらしないという自分を理解した上で「そういう自分が出ないよう、色々な形で自分を“型”に入れて仕事をしています」とも言う。

その1つが「味美」という店名。その名前には「味を取れば美しさが欠ける。美しさを取れば味が欠ける。そのバランスが大事」という意味を込めている。
その店名を見ながら河原畑氏は「自分がそれをちゃんと出来ているか?」と毎日問いかけることで日々自分を律しているのだ。

そしてカウンター割烹もまた河原畑氏にとっての“型”の1つ。
カウンター割烹はお客様の眼の前で調理を行うが故に「嘘がつけない」。
ちょっとした粗相があっても、それがお客様の眼の前で起こることである以上は、いい加減なことが出来ないのだ。だからこそカウンター割烹は河原畑氏にとって「お客様に罪を作らないで済む」と言う。
同時に、カウンターの中心に自分がいるからこそ、常にお客様に見られているという意識が生まれ、自分を律することが出来るのだ。

そのような河原畑氏に今回のミシュランガイド1つ星獲得の感想をお聞きすると
「ミシュランはお祭りのようなものですので、そこに参加できたことが先ずは嬉しく思っています。同時に星を頂くことで責任感が生まれました。それが一番ありがたいと思いました」
と、やはり謙虚な姿勢でお答えを下さった。

ミシュランガイドの影響だけではなく、これから博多にも海外からのお客様が増えて行くことは河原畑氏も視野に入っている。
その中にあって河原畑氏は海外のお客様に「味美」で感じてもらいたいことを次のように語って下さった。

「例えば屋台のように隣同士がすぐに仲良くなるような、そんな堅いわけでもなく、でもきちんと礼儀がある、そんな博多の持つ雰囲気ですね。日本人のする仕事はちょっと堅すぎることが多いと思いますが、海外のお客様はもっとフランクなものを求めていらっしゃる。だからこそ博多らしさのあるカウンター割烹であることで、和食だからと言って『堅いばかりじゃないんだ、こういう分かりやすいものにも変えられるんだ』と知って頂く、そういう『和食の入り口』のお店でありたいと思います」

実際に今でも海外のお客様がいらした場合、「魚骨のスープのしゃぶしゃぶ」のような河原畑氏が考える“博多らしい”料理をお出しすると喜ばれるという。

表面的なものではなく、本質的な博多らしさ。
気取らず堅苦しくなく寛げるが、きちんとした礼儀はわきまえている。

そんな料理をこれからも“博多の割烹”として「味美」は追い求めていこうとしているのだ。

河原畑氏の料理人としての世界は、ミシュランで評価された今ではなく、これから本当の意味で花開こうとしているのかもしれない。

 

店主・河原畑豪二氏。ミシュランの星を「責任感が持てたことが嬉しい」と語る謙虚さと、仕事に対する誠実さを持った料理人である。

店主・河原畑豪二氏。ミシュランの星を「責任感が持てたことが嬉しい」と語る謙虚さと、仕事に対する誠実さを持った料理人である。

店舗データ

店名 割烹 味美 店主・河原畑豪二
住所 福岡県福岡市博多区中洲4-1-10-1F 第2きよたけビル
アクセス 地下鉄空港線「中洲川端駅」より徒歩約5分
電話 092-262-0381
営業時間 17:00~24:00
定休日 日曜日・祝日
坪数客数 約30席

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