今日、夜の天神を歩いていました。
街はすっかりクリスマスに彩られ、それだけを見るならば例年と変わらない風景です。
しかし、歩く人の数が多くない。12月の喧騒とはちょっと違う雰囲気の天神でした。
年々、年末の忙繁期が遅くなっているという話はよく聞きます。
今年もそんな雰囲気が漂っていますね。
もしかすると自分の気のせいかもしれません。
しかし、少しだけ不安な匂いを嗅いだ天神の夜でした。
さて、年末に限らず、年々、中小企業の商売は難しくなってきていると感じています。
それは、お客様の嗜好や価値観がどんどん多様化して「こうすれば、こうなる」という単純な思考が成立しなくなってきているからです。
私は2000年代初頭に中小企業向けのマーケティングを学んだ人間ですが、その頃はまだ「客層」と言えるものが確かにありました。
あるボリュームで共通した年代の共通した嗜好を持ったお客様の集まり(市場)がその頃はまだ存在したのです。
その時期、ある方に「マーケティングって何ですか?」と質問され、私はこう答えました。
「マーケティングとは“的を射る”作業ですよ。どんなお客様がどんな生活の中でどんな商品やサービスを望んでいるかを考え、その商品・サービスを揃え、お客様に届けることででお客様の気持ちを打ち抜くこと。それがマーケティングです」
この答えは今でも間違っていません。
マーケティングというのはそういう作業です。
しかし、10年前と今を比べた時に間違いなく言えるのは、以前は1つの的を1本の矢で射ぬくことを考えれば良かった。
しかし、今は同時に複数の的を複数の矢で射ぬく作業が必要になる。
特定のマーケットだけに狙いを絞って的を射ぬこうとしてもマーケットそのものの厚みが10年前よりもはるかに小さい。
それは、お客様の価値観や嗜好、ライフスタイルが多様化することで同じ価値観や嗜好を持った人の集まり・市場のボリュームがどんどん小さくなったからです。
極端なことを言えば、今は1万人のお客様に合わせた商売ではなく、1人のお客様に合わせた商売が必要になっている。
しかし、それがもしかすると今飲食店に最も求められていることなのかもしれません。
1人のお客様のために心を砕いて、その方が笑顔になるよう努めること。
現場レベルのサービスの話ではなく、店のあり方としてそれが実現出来る“幅のある店作り”、それが今求められていると言えます。
今、繁盛しているお店を見るとそういった幅を感じさせる店が多いことに気が付きます。
例えば居酒屋であれば、居酒屋の持つ多様な要素を1つにまとめてパッケージ化したようなお店(あるいは場所)に人が集まっている。
そう書くと思い当たるお店は幾つかあるのではないでしょうか?
逆を言えば、多様な選択肢を1か所で選べる自由さ。
そういう自由さのあるお店こそが、今のお客様が望んでいるお店の形なのです。
島瀬武彦
1971年7月20日生まれ。山口県山口市出身。学習院大学フランス文学科中退後、家業の喫茶店の2代目として飲食店経営に関わる。山口県山口市徳地という山の中の田舎の立地に苦戦する中で、神田昌典氏が主宰する「顧客獲得実践会」に参加。通販業界が使うダイレクトレスポンスマーケティングの手法を飲食店の集客に応用することで売上を劇的に改善。2004年よりマーケティング・戦略コンサルタントとして活動。2014年よりフードスタジアム九州編集長を務める。