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【話題店チェック】薬院 炉端 氷炭 ~”今”の顧客感覚でデザインした大衆居酒屋


 

サブ1

 

「炉端 氷炭」の誕生は、ひょんな一言から始まった。
2013年6月、「とりのこ」での仕事が終わった後スタッフと飲みながら語った彼の一言。
「炉端も良いよね」
その一言で全てが決まり、全てが動き出した。

中央区薬院1丁目で(株)ひめ代表の下登昌臣氏が8年間運営をしてきた「とりのこ」というお店。
お客様の評価も悪くはない。
しかし下登氏はすでに次を求め、その答えを炉端に求めようとしていた。

「とりのこ」がオープンした8年前、下登氏が感じていたのはリーマンショック前の景気の良さを前提にした、客単価5000円前後のややアッパーなきちんとしたお店を求めるお客様の動きだった。一軒家をそのまま改装して作った小洒落た空間に、しっかりとした素材感のある料理。立地もあえて住宅街の中の隠れ家的な場所を選び、お客様が店に来店するまでの過程も含めたトータルなデザインを施した「とりのこ」は、確かにその時期お客様が求めていたお店であったし、それを裏付ける評価をもらえた店だった。

しかしそれから8年が過ぎた時、すでに時代が変わっていることを下登氏は肌で感じていた。お客様の飲食店の使い方は完全に2極化している。単価が高くとも予約してでもわざわざ足を運ぶ店と、日常的に使える普段着のようなお店。「とりのこ」はすでにその2極した使い方の間に入ってしまっている。予約する店として(株)ひめにはすでに「hime-ひめ本店」がある。ならばもう1つは低単価で日常使い出来るお店が必要だ。

その下登氏の感覚が言葉になって出たのが「炉端も良いよね」の一言であり、それから5ヶ月後の2013年11月「とりのこ」は閉店し、そのままその跡地にオープンしたのが「炉端 氷炭」であった。

2013年11月にオープンした「氷炭」。「とりのこ」に使っていた一軒家をそのまま使用している。

2013年11月にオープンした「氷炭」。「とりのこ」に使っていた一軒家をそのまま使用している。



 

サブ2

 

 

「氷炭」で下登氏が求めたもの。それは先ずは大衆居酒屋であること。炉端を研究する過程で見た東京の下町の居酒屋にあった雰囲気。それらの店は朝から営業し酒を出し、近所のお客様達がまさに普段着を着るように気軽に集まりお酒を楽しむ。
その雰囲気を、先ずは“人”に求めたのが「氷炭」である。

そのために「氷炭」ではキッチンを全てオープンにし、お客様がカウンターのどの席に座ってもキッチンが見渡せる配置を作っている。さらにキッチンとカウンターの間には通路を設置し、常にスタッフがお客様の眼の前に立って料理をお出し出来るようにしてある。

「氷炭」には “ホール”と“キッチン”の境界はない。料理人もまたお客様と直接会話しながら料理を作り、料理を出していく。下登氏がオープン時にスタッフに徹底して語ったのは「飲食業は接客業である」という点。それを前提に料理人も接客をすることが当たり前になる店内配置を作ることで、料理を作る人間とお客様の接触の機会を増やし、お客様に飲食店本来の楽しさや気持ち良さを感じて頂けるように配慮してあるのだ。

さらにBGMは昭和歌謡を流し、ホールスタッフの女の子には和服を着せ、まるで女将さんのような立ち振舞いをさせることで大衆居酒屋としての気軽さを演出している。

それらは全てが「氷炭」で働くスタッフの“人間味”を感じてもらうためのデザインである。

だからであろう、「氷炭」には人と人が触れ合う“温かさ”が感じられ、その温かさを求めお客様が気軽に足を運ぶ。

カウンターとキッチンの間の通路。この通路を設置することでお客様の前から料理を出すスタイルが生まれる。

カウンターとキッチンの間の通路。この通路を設置することでお客様の前から料理を出すスタイルが生まれる。



 

サブ3

 

料理も決して気取らず大衆居酒屋らしい気軽なメニュー内容に徹している。
しかし、そこで出てくる素材の質の高さは(株)ひめのこだわりをそのまま反映している。

特に糸島・満天農法の有機野菜をそのまま笊に盛って、自家製肉みそと共に客様の眼の前にどんと出すお通しのアプローチの上手さは秀逸。
笊に盛られた野菜も肉みそもお変りは自由。
先ずはこのお通しで「氷炭」の料理の素材の確かさと料理のスタイルの両方をお客様に感じて頂く。

特に糸島の満天農法の野菜は、下登氏はもちろんスタッフも畑へ直接足を運びその野菜がどのように生産されたかを現場で学んだもの。
だからこそ、最初のお通しから自信を持ってお客様に薦めることが出来る。

炉端メニューの華である刺し盛りは“今が旬”の魚を厳選。スタッフ自身が市場へも足を運ぶこともあるという。
さらに一夜干しの魚もまた旬の魚のみにこだわり、手をかけて自家製で仕上げる。

大衆居酒屋ではあるが、料理の素材選びと、料理そのものには手を抜かない姿勢。
そこもまた料理人の“人間味”が現れる部分であり、そこを通しても「氷炭」はお客様に“人が生みだす美味しさ”をお届けしようとしている。

(左)満天農法有機野菜のお通し (中央)旬の魚を厳選した刺身盛り合わせ・1580円 (右)自家製一夜干しカマス・780円

(左)満天農法有機野菜のお通し (中央)旬の魚を厳選した刺身盛り合わせ・1580円 (右)自家製一夜干しカマス・780円



 

サブ4

 

下登氏の経営者としてのスタンスは「先ずは自分がお客様になる」という点でブレがない。

お客様として見た時に「氷炭」がどう映るか?
その1点に集中して「氷炭」のお店としてのスタイルをデザインする。

それは二極化する飲食店の使われ方の中でより大衆的なお店が必要だと感じたところからも、飲食業とは何かを原点に立ち返り考え、その中で人間味と温かみのあるお店のスタイルを構築していった姿勢からも伺える。

料理に関しても何がお客様に必要かをお客様と同じ目線で考え、必要な要素を揃える。
実は現在のメニューも開店後1度全て見直して作り直したもの。
オープン後、一度売り上げが低迷した時期に「ちょっと全体に上品で値段が高すぎる」と感じた下登氏が現場にメニューの見直しを指示し、より大衆感のある低単価のメニューに組み直したという経緯がある。メニューの見直し後は月商も600万円台に入り売上推移も好調。
「あれがなかったら今でも売り上げが低迷して、しかも理由が掴めずに迷っていたかもしれません」とは安部勇太郎店長の言葉。
そこにも下登氏の顧客感覚の確かさが感じられる。

その反面、下登氏は自身のことを「商売下手」と笑いながら語る。
「商売が上手ければ流行に乗ってドンっと行くんだろうけど、むしろ逆方向ばかり考えるんです。流行は全く追いかけていません。それよりも自分が“今”面白いと思うことをやりたいと思っています」と。

「氷炭」がオープンした時期は福岡で炉端の店が立て続きにオープンした時期に重なるが、その動きに対しても「たまたま。狙ったわけではないです」語ってくれた。

「それよりも(良い意味での)期待を裏切るつもりで作ったのが『氷炭』です。狙った通り裏切れたと思っています。今の『氷炭』は自分でも居心地の良いお店になったな、と感じながら見ています。これから先は東京で見たお店のように朝から居酒屋営業してみたいですね。朝から飲む文化が福岡にはないから難しいかもしれませんが、今でも午後4時から営業していると年配の方が気軽に飲みに来られたりもしていますよ」

そう語る下登氏の言葉からは気負いもなく飲食店経営を楽しんでいる気持ちが伺えた。

下登氏のお客様として感じる面白いことが詰まった「氷炭」。
これからどんな成長をしてくれるのかを楽しみにしたい。

(株)ひめ 代表取締役 下登昌臣氏。自身の顧客感覚を軸に「面白いことをやりたい」と語ってくれた。

(株)ひめ 代表取締役 下登昌臣氏。自身の顧客感覚を軸に「面白いことをやりたい」と語ってくれた。



 

店舗データ

店名 炉端 氷炭
住所 福岡県福岡市中央区薬院1-4-21
アクセス 西輝薬院駅から今泉公園方面へ徒歩3分。
電話 092-731-4060
営業時間 16:00~24:00
定休日 日曜日
坪数客数 30坪50席
運営会社 株式会社ひめ 代表取締役 下登昌臣

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