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特集

【九州の器 Vol.1】アリタ・ポーセリン・ラボ 400年の伝統と「21世紀のライフスタイル」


 

タイトル
 

サブ1

 

2010年2月、ニューヨークで開催されたそのイベントは、ニューヨークのレストラン関係者に確かな波紋を投げかけた。

アリタ・ポーセリン・ラボを主宰する七代目弥左ヱ門こと松本哲氏がリリースした新しい有田焼のスタイルを示す“JAPANシリーズ”がこの日、ニューヨークフレンチの巨匠デイビット・ブーレー氏とのコラボディナーイベントで発表されたのだ。

 

従来の有田焼の技法と伝統的な紋様デザインを活かしながら、21世紀のライフスタイルに根ざし、なおかつ日本独自の生活感覚を世界へ向けて発信するJAPANシリーズ。

和食器の持つ繊細なデザインと、日本人の持つ季節感に沿った器使いの感覚、そして21世紀に住む私達の感覚にマッチする色使い。

その古くて新しいスタイルはニューヨーカーに新鮮な驚きと共に「日本の有田焼」の印象を塗り替えるに充分なインパクトを与えた。

松本哲氏のJAPANシリーズ「JAPAN BLUE 反鉢/コバルトブルー」伝統的な技法を大胆な色使いで表現。

松本哲氏のJAPANシリーズ「JAPAN BLUE 反鉢/コバルトブルー」伝統的な技法を大胆な色使いで表現。



 

サブ2

 

古くは16世紀に遡る有田焼の歴史は海外との関係、特にヨーロッパへの輸出の中で育まれてきた。

“伊万里焼”という呼称は、有田や波佐見といった九州北部の焼き物を総称する物であるが、それ以上に伊万里港から輸出される焼き物という意味が強い。

有田焼のユーザーは古来から、海外にいたのだ。

 

しかし、有田焼が輸出品としての人気を維持出来たのは昭和40年代まで。

昭和46年の円変動相場制の導入以後、有田焼の輸出は伸び悩み、多くの窯元は国内へその市場を転換せざるをえなくなる。

さらに昭和63年に起こったバブル崩壊で国内の市場も一気に収縮。多くの窯元が苦境に立たされることになった。

 

アリタ・ポーセリン・ラボを運営する弥左ヱ門窯(有田製窯株式会社)もまた、その苦境に直面した窯元の1つ。

江戸時代1804年に初代松本弥左ヱ門によって開かれた伝統ある弥左ヱ門窯は、明治から昭和にかけては輸出専門の窯として隆盛を誇るが、バブル崩壊後の不況の中で約20億の負債を抱え倒産。民事再生法の適用を受け、その当時都銀で働いていた松本哲氏が実家の弥左ヱ門窯に呼び戻され7代目弥左衛門を襲名。

 

松本氏の新しいチャレンジはその時に始まった。

7代目弥左ヱ門 松本哲氏

7代目弥左ヱ門 松本哲氏



 

サブ3

 

「100年後の有田を考えるならば、再び世界で有田焼が評価されなくてはならない」

それは松本氏の執念と言っても良いかもしれない。

 

そのために松本氏が行ったのは、まずは自社の器の商品性の見直し。

現代の生活様式の中にはかつてのような「器使い」の文化は薄くなっている。その中で昔ながらの器作りをしていては売れない方が当たり前と、今のライフスタイルに合わせた器作りを模索。その結果2006年に生まれたのが「アリタ・ポーセリン・ラボ」という新しい自社ブランドだった。

 

アリタ・ポーセリン・ラボが作る器は、決して有田焼の伝統を無視したものではない。

江戸時代から続く伝統的な紋様デザインは「永くあるからこそ確立されたデザイン」としてそのまま踏襲しながら、時にはその紋様をワインポイントとして大胆に使用。時には色を全く別にすることで新しい世界観をそこに与えた。

さらに有田独自の色付けの技術と新しい独自技術を融和させながら赤とゴールド、あるいは白とプラチナという大胆な色使いを実現。有田焼の技法に新しい息吹を吹き込んだ。

 

その松本氏の想いが結実された器。

それがアリタ・ポーセリン・ラボの“JAPANシリーズ”なのだ。

「JAPAN SNOW 多様鉢・プラチナ」白磁本来の白さと、独自の製法で塗られたプラチナの美しい銀色。伝統と新しさの融合

「JAPAN SNOW 多様鉢・プラチナ」白磁本来の白さと、独自の製法で塗られたプラチナの美しい銀色。伝統と新しさの融合



 

サブ4

 

 

例えば、“JAPANシリーズ”には「銘々皿・古伊万里草花紋」という小皿がある。

そこに描かれた紋様は古伊万里の物をそのまま使ったもの。

中心に描かれているのはコウモリを図案化したものだが、蝙蝠(コウモリ)という漢字に使われている「蝠」が「福」に通じるとして縁起の良い図案とされている。

さらに周りに飾られているのは草と花。コウモリと共に生命力のある草花を置くことで、その器を使う人の繁栄を願う図案となっている。そこにはまさに江戸時代から続く“思想を持った”デザインが息づいている。

 

しかし、JAPANシリーズはそこからもう一歩踏み込む。

使う季節に合わせて色使いを変えることを意識し“JAPAN SNOW”(冬)では白磁の白を引き立てる黒とプラチナを配色。“JAPAN CHERRY”(春)は桜をイメージさせる薄いピンク、“JAPAN BLUE”(夏)は涼しげな水色、“JAPAN AUTUMN”(秋)は実り豊かなゴールド、”JAPAN TEA“(新緑の春)は鮮やかなグリーンと、使うシーンだけではなく、使う季節に合わせた色使いを提案している。

 

そこには古伊万里の伝統と、古くからある日本人の季節感と、21世紀のライフスタイルの中にある新しい色彩感覚が融合した「21世紀の有田焼」が表現されているのだ。

 

「銘々皿・古伊万里草花紋」最上部が伝統的な伊万里の色使い。その下4種がJAPANシリーズ。色を変えることで新しい表現が可能になる

「銘々皿・古伊万里草花紋」最上部が伝統的な伊万里の色使い。その下4種がJAPANシリーズ。色を変えることで新しい表現が可能になる



 

サブ5
 

 

伊万里焼400年の歴史を俯瞰しながら、同時に21世紀のライフスタイルを注視する松本哲氏。

彼は今の有田焼を「伝統産業が伝統工芸に転落しようとしている。その先にあるのは民芸でしかない」と危機感を持って語る。「だからこそ、もう一度世界で評価される有田ブランドを作る必要があるのです」と。

 

近年ニューヨークで日本食ブームが沸き起こり、2013年には世界無形文化遺産に登録された「和食」。

その和食の世界に繋がる和食器でアリタ・ポーセリン・ラボのようなチャレンジが行われているのは、ある意味必然なのかもしれない。

 

今、和食は世界に大きく開かれようとしている。

日本人の心を日本人に向けて表現している和食ではなく、日本人の心を世界の人たちに向けて表現する新しい和食が生まれようとしている。

その時、その料理を盛る器はどのようなものなのだろうか?

 

その答えの1つがアリタ・ポーセリン・ラボのチャレンジなのだろう。

 

1億人向けではなく70億人向けの日本の表現が、そこには垣間見える。

 

 

店舗データ

店名 アリタ・ポーセリン・ラボ
住所 〒844-0003 佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-11-3
アクセス 長崎道・武雄北方ICを降りて国道35号線を有田方面へ。有田泉山交差点を右折後、線路を越えて左折。そのまま道なりで約5分。
電話 0955-43-2221 (有田製窯株式会社営業部) *見学ご希望の方は営業部までお問い合わせください
運営会社 有田製窯株式会社 代表 7代目弥左ヱ門 松本哲

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