トレンドに敏感な若者が行列を作る店が立ち並ぶ福岡・大名地区。この一角で5月23日、土鍋ご飯とこだわり野菜の店「八十八(やそはち)」が開業した。代表の有馬浩平氏が掲げるミッションは「 日本の農業が抱える問題を改善すること」。八十八は消費者である来店客に、こだわりの米や野菜を生産する農家の思いを直接発信するための窓口だ。他業種から脱サラし、前職時代の2人の同僚とともに大きな課題に挑むための一歩目を踏み出した有馬氏。 「いずれは法人化し、飲食店だけでなく、生産から消費まで関われるような事業に取り組んでいきたい」と構想を語る。
きっかけは日本の農業への危機感
出店のきっかけは、 大分県の国東半島で大手コンビニの社員として勤務していた5年ほど前。地域の異業種交流会で、農家の男性の口から若者の農業離れ、高齢化、農協に出荷することの弊害、低い食料自給率など日本の農業が直面する課題が語られた。 有馬氏は「僕自身、普段からあちこちで耕作放棄地を目にしていた。当時はTPPも話題になっていて、今後の日本の農業や人々の食への意識を変えていくことへの関心が募っていった」と振り返る。もともと学生時代から起業したいという気持ちもあり、思いに賛同してくれた同僚2人と独立を決めたという。米や野菜を仕入れる基準は農家の「愛」
メニューに並ぶ米や野菜、卵などの主な食材のほとんどは有馬氏や仲間達が実際に生産者に会い、話を聞いて納得した上で直接仕入れている。現在の取引先は福岡県宮若市や佐賀県吉野ヶ里町、岡山県新庄村などの約10農家。 視察に訪れると「土を食ってみろ」「話をする前にまず食べて」など生産者の自負を感じる多くの言葉に触れた。9割が外国産と言われるパプリカを大分県九重町で温泉熱を利用して二酸化炭素排出量ゼロで生産する「愛彩ファーム九重」など、最先端技術を駆使する農家にも出合った。有馬氏は「農家の『愛』が感じられるかどうかが、取引を決めるときに一番大切にしていること」と語る。現在も週に1回は各地の生産者たちの元を訪れているという。「いずれは生産から消費まで関われる事業に取り組みたい」と考える有馬氏にとって、生産者のもとを訪ねることは食材探しであると同時に、農業のリアルやポテンシャルを探るリサーチだとも言える。「まだ具体的ではないけれど」と前置きした上で「生産物の卸売的な事業やブランディング、最先端の農業手法の提案・販売など、農家の人たちがこだわって生産活動をするための環境をサポートできるようなことをしたい」と構想を膨らます。その一歩目を飲食店として踏み出したのは、コンビニ時代から消費者に直接価値を伝えるB to C の力を感じてきたからだという。「僕らが信念を貫けば、農家の人にもわかってもらえる」と語る有馬氏。商品は農家の言い値で購入しており、「そこに付加価値をつけて提供するのが僕らの仕事」と力を込める。
6種類から選べる土鍋ご飯や純米酒のしゃぶしゃぶ
名物の「どなべめし」は福岡県宮若市の安河内氏による平成27年国際コンクール金賞米「にこまる」(1合530円)、岡山県新庄村の坂本氏による完全無農薬栽培米「コシヒカリ」(1合580円)、佐賀県吉野ヶ里町の松本氏が土作りからこだわった「天使の詩」(1合480円)など全6種類から選ぶことができる。米は土鍋で炊き上げられ、それぞれの生産者のストーリーと共に客のテーブルに届けられる。福岡県鞍手町の「味宝卵(みほうらん)」をのせた「究極のたまごかけセット」(イクラとトビコ付き、480円)も人気だ。野菜の素材の味をシンプルに生かした「九重パリパリ温泉パプリカ」(480円)、「若松水切りトマト」(同)、「旬野菜のかぶりつき 米糠ソースで」(880円)など のほか、「ゆふいんの美味しい漬物盛り」(480円)、「八十八のポテトサラダ」(580円)、「しらすおろしのいくらのせ」(480円)など酒のつまみも豊富。「佐賀県有田鶏のももたれ焼き」(880円)、「しっとりローストビーフ しゃきしゃきたまねぎと」(980円)など食べ応えのある品々も揃う。
米をメインに据える店とあり、アルコールを飛ばした純米酒に昆布と鰹だしを加えた「純米酒のしゃぶしゃぶ」シリーズも注目したい。具材は「鹿児島県産黒豚」(1680円)と「長崎県産真さば」(1880円)。あご出汁の創作おでんも「大根鳥味噌のせ」(380円)、「アボカドの天ぷら」(480円)、「いわしのあおさつみれ」(480円)などオリジナルの具材が並ぶ。
もちろん米にこだわった日本酒も多数揃え、「みやわか 宮桜」(540円)など製造地の福岡県宮若市以外では手に入らない銘柄にも出合える。「秘蔵古酒」(530円)や「千年寝坊助」(580円)など米焼酎も多数ラインナップしている。
ランチタイムの「八十八おにぎりランチ」(880円)は4種類の米を食べ比べられるおにぎりと、日替わりのメインディッシュ、小鉢などが楽しめる。
生産者や行政マンも来店し応援
オープンから1ヶ月の間にすでに常連になった客もいる。複数の農家の混合米ではない「自分の米」を見届けようと立ち寄る生産者や、有馬氏たちの志に共感し、応援する行政の人々も訪れているという。有馬氏は店舗展開の今後について「店が増えればそれだけ生産者から多くの商品を購入することができ、幅広い人々にその魅力を発信できる」と意気込む。農林水産省によると2017年度の日本の食料自給率は38%(カロリーベース)、農業就業人口も年々減っている。一方、ICT技術の導入、若手農家の躍進や海外での日本食ブームなど明るい話題も注目されている。「農業の道」を歩み始めた有馬氏ら八十八のこれからにも期待が高まる。
(取材=港そら)
店舗データ
店名 | 八十八(やそはち) |
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住所 | 福岡市中央区大名2-2-47 |
アクセス | 西鉄福岡天神駅から徒歩10分 |
電話 | 092-717-1008 |
営業時間 | ランチ11:30-14:00、ディナー17:00-24:00 |
定休日 | 火曜日 |
坪数客数 | 20坪(カウンター8席、テーブル18席、個室10席) |
客単価 | 4500円 |
オープン日 | 2019年5月23日 |
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