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伝説のお店

【伝説の店 Vo.3】博多だるま総本店~リアリズムとエモーショナルのバランスの中で生まれるラーメン


◆客観的な冷めた視点と、主観的な熱い想い

「元々自分はラーメンはそんなに好きじゃかなったんですよ」

そう屈託なく笑いながら語るのは、福岡の人気ラーメン店「博多だるま」を経営する有限会社D&H inc./D&K inc.の代表・河原秀登氏。

「博多だるまラーメン」は河原氏の父である河原登氏が開業し、その歴史は創業50年を超える。

河原秀登氏はその2代目であるが、ただ単に伝統を守るだけの2代目とは違う創業者チックな視点を持っている。

何と言えばいいのだろうか?
リアリスティックな思考と、エモーショナルな想いを交錯させながら、どちらかに傾きすぎないように行動する、絶妙なバランス感を持つのが河原氏なのだ。

そのリアリスティックな面が「ラーメンは好きじゃなかった」とさらりと言わせ、博多名物のとんこつラーメンという料理を客観的に見る視点を持ちながら、同時に「とんこつラーメンも博多の文化ですから、ラーメンを通じて博多の文化を世界中に向けて紹介したいんです」というエモーショナルな”想い”を持った経営を行っている。

その客観的な冷めた視点と、主観的な熱い想いという、ともするとどちらかに傾きがちになる2つの要素を1つのものとして抱き合わせに出来るバランス感覚。
河原氏のお話を聞いていると、そのバランス感覚の中に「博多だるま」が50年以上の歴史を刻みながらも今でも人気店であり続けている秘密があると感じられる。

「博多だるま」「秀ちゃんラーメン」という2つの名店を経営する河原秀登氏。その経営のバランス感覚が2店の人気を生み出している。

「博多だるま」「秀ちゃんラーメン」という2つの名店を経営する河原秀登氏。その経営のバランス感覚が2店の人気を生み出している。



 

◆伝統を受け継ぎながら、同時に新しいチャレンジを行う

河原秀登氏は1966年生まれの48才。

「好きではなかった」という言葉通りに元々ラーメン屋を継ぐつもりではなかった。
高校卒業後大阪で和食の料理人として修業をし、福岡に帰って来てからも中洲で別の仕事をしながら父親の「だるま」を手伝うというどちらつかずの生活を送る。

その頃のラーメン屋というものを河原氏は「今のようにビジネス的に語れるものではなかった」と振り返る。
繁盛店と言える店もまだなかった時代であり、「だるま」を手伝っていても自分の人件費はほとんど出ない家内制手工業のような世界がラーメン屋だった。

しかし、23歳の時に「どうせやるならばしっかり打ちこんだ方が良い」とラーメン屋に打ち込む決意をし、さらに「27歳には自分の店を持とう」という目標を持ってラーメン一本の道へ進む。

その目標通りに27歳の時に立ちあげたのが現在D&H inc./D&K inc.の2本柱の1つでもあり、ニューヨークやカンボジアにもその存在感を示している「秀ちゃんラーメン」である。

さらに2000年には東区箱崎にあった先代の「だるま」が暖簾を下ろすあたり2代目としてその名を引き継ぐことを決め、中央区渡辺通1丁目に「博多だるま」を開業。

その際には、名前を受け継ぐにあたり先代が培ってきた伝統と技術も継承し、同時に全て同じことをするのではなく、今の時代に求められるラーメンとは何か?を新しく表現し直すというチャレンジも行うことで、「博多だるま」をこれから新しく歴史を作るブランドに作り直すという作業も行っている。

その伝統を受け継ぎながらも新しい表現へのチャレンジを同時に行うという姿勢の中に河原氏のバランス感覚が見えると同時に、だからこそそこに「博多だるま」が歴史を重ねながらも人気をさらに加速させた要因があるとも言えるだろう。

2000年12月に開業した「博多だるま総本店」。渡辺通り1丁目の裏路地にありながら昼夜お客様の絶えない人気店であり続けている。

2000年12月に開業した「博多だるま総本店」。渡辺通1丁目の裏路地にありながら昼夜お客様の絶えない人気店であり続けている。



 

◆全てが組み合わされて生まれる1杯のラーメン

河原氏が「だるま」の名称を引き継ぎ渡辺通りの「博多だるま」を開業する際に行ったチャレンジとは食材の見直しである。
先代河原登氏が生み出した独自の麺の製法とスープの取り方は受け継ぎつつ、麺の素材、スープに使われる素材を全て新しいもの切り替えたのだ。

そこで目指したのは「健康的なラーメン」。
ラーメンは日常食だからこそ体に良いものを口にして欲しいという気持ちの中から、化学調味料を使わず無添加の素材にこだわったラーメンを作り出した。

その試みが正解であったことは、「博多だるま」開業し15年経った今の食の状況を見れば分かるだろう。

今でこそ飲食店の世界では健康志向は当たり前のように語られるが、2000年当時に行われた河原氏の取り組みは正に”チャレンジ”と表現して良いものであった。
まだ業界全体の意識がそこに至らず、業者に無添加の食材を求めても持っていなかった時代。
ないものは自分達で作ろうとスタッフと共に仕込みに時間をかけながら取り組んだ古くて新しい「だるま」のラーメンの味は、そこで表現されたものが今の時代にマッチしていたからこそ福岡を代表するラーメンとして名を轟かすに至っている。

「博多だるま」で出されるとんこつラーメンの一杯には、おそらくそれが生み出される背景となった先代への想いもあるだろう。
あるいは、その先代を含めてとんこつラーメンという文化を生み出してきた博多の街への想いもある。
さらに、体に良いものを食べて頂きたいというお客様への気持ちもある。
同時に、今の時代のラーメンがどうあるべきかを考えた冷静な視線がある。
もちろん、繁盛店を作ろうとするビジネス的で客観的な意識もあるだろう。
それらの全てが、どれか1つか掛けても成り立たない断片として組み合わされバランスを取りながら表現された1杯。
それが河原秀登氏が生み出した、「博多だるま」のラーメンなのだ。

健康を意識した食材を使いながら伝統的な技法で作られる「博多だるま」のとんこつラーメン。

健康を意識した食材を使いながら伝統的な技法で作られる「博多だるま」のとんこつラーメン。



 

◆博多とんこつラーメンから福岡の文化を発信

その河原氏はこれからの展開については日本という枠を越えて世界的な視野の中で考えている。
既にニューヨークでは5年前に「秀ちゃんラーメン」を開業し、同店はニューヨークで巻き起こった「ラーメンブーム」の牽引的な存在として知られている。

同時に昨年はカンボジアにも「秀ちゃんラーメン」を出店し、東南アジアでのビジネス展開の生の感触もつかんでいる。
河原氏にとってアジアは「まだまだこれからのマーケット」であると言う。
出店においての法制面や税制面でのインフラ的な問題もまだ多くあり、同時に文化的な背景という面においてもラーメンが受け入れられる下地がまだ出来切っていないと感じている。

むしろ河原氏が今現在で可能性を感じているのはヨーロッパである。
それは昨年からパリにおけるラーメン店の状況を実地で見聞する中で「日本で名店と言われる店ばかりではなく、なんでもないラーメン屋までもお客様の行列が出来ているんです」という生の感触を感じてのこと。
「ヨーロッパにもラーメンの火が着き始めていますよ」と目を輝かせながら河原氏は語る。

河原氏の海外へ意識の背景には、自身が属しているとんこつラーメンの世界が福岡という地域を世界へ発信するための格好の文化的な要素だという考えがある。
「日本という大きな枠ではなく、日本の中の福岡をいう街を世界に紹介しようと思ったら、とんこつラーメンというのはとても紹介しやすいんですね。とんこつラーメンを食べてもらうことで福岡を知ってもらうきっかけが生まれますから」とは河原氏。
河原氏の海外への出店は、「福岡の文化としてのとんこつラーメン」を世界に紹介したいというエモーショナルな想いが原動力になっているのだ。

同時に国内への展開、特に「博多だるま」の今後の展開に対しては「もっと出店したいという気持ちはありますし、出店しないかと声をかけて下さる機会も多いですが、人を育てて行かないと無暗に出店できないので、意図的に店を出すのを控えています」とリアリスティックな視点で考えている。

ここにもまた河原氏のバランス感覚が顔を覗かせている。
アグレッシブであるが、同時に堅実的な面がここでも両立しているのだ。

さらに「人を育てる必要がある」と語る河原氏の言葉の背景には、単純に出店要員を作るという現実的な要素だけではなく「人を育てることが福岡らしさを生む」という気持ちがあるのも垣間見える。

河原氏は人を育てるという面では「店を任せるスタッフには名物店主になってもらいたいんです」と語る。

同時に河原氏に「外から来るお客様から見た時に福岡らしさと言うのはどこにあると思いますか?」と質問した際の答えが以下のものである。
「福岡の面白さを考えた時、そこにあるのは人の魅力ではないかと思います。こんな場所がある、こんな店があるというのではなく、この店に行けばこんな面白い人がいるという、その人に会いに行くのが面白いといえる魅力ある人が多いのが福岡でしょう」

「そこへ行けばこの人がいる」という魅力的な店主がいて、そこでは福岡の文化の一要素としてのとんこつラーメンが食べられ、それらを通して福岡らしさを感じてもらえる店。
そしてそこで提供されるラーメンは、製法や技術は伝統を守りながらも、表現は今の時代に合わせたものになっている。

伝統を守るという保守的な要素、時代に合わせるという革新的要素、ビジネス的なリアルな要素、福岡の文化を世界に知ってもらいたいというエモーショナルな要素、それらが一体になって進む「博多だるま」は、これからも博多とんこつラーメンの世界を牽引する名店として福岡で愛さる店であり続けるであろう。

理想主義的なエモーショナルな要素と、現実主義的なビジネス視点が1つにまとまるバランスの中で「博多だるま」は名店の名を手にしている。

理想主義的なエモーショナルな要素と、現実主義的なビジネス視点が1つにまとまるバランスの中で「博多だるま」は名店の名を手にしている。

店舗データ

店名 博多だるま 総本店
住所 福岡市中央区渡辺通1-8-25
アクセス 地下鉄七隈線渡辺通から徒歩5分
電話 092-761-1958
営業時間 11:30~24:30 (オーダーストップ.24:00)
定休日 元旦
運営会社 有限会社D&H inc./D&K inc.

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