「人の成長」を第一に掲げ、 スタッフの独立支援や幅広い業態での展開で知られるアトモスダイニング。アルバイトスタッフの研修にも力を入れ、アプリを活用した社内のコミュニケーションも活発だ。一方、創業者で代表取締役社長の山口洋氏は自らの主導でフランチャイズ事業部を立ち上げ、3月末にはモデル店となる新業態をオープン予定。ヘルシー志向のブーム到来を見越した準備も着々と進めている。動き続ける山口氏の「今」に迫った。
—アトモスダイニングの「スタッフが育つ環境づくり」とはどういうものなのでしょうか?
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ホスピタリティを身に付けることは「自分が幸せになる方程式」だと教えています。「誰かのために何かをしてあげたい」と思って人と接すれば、必ず周りを幸せにしているし、やってもらった人が「お返ししなきゃ」という気持ちになるはず。 そういう連鎖をつくっていければ、将来社会人になった時に幸せになれるよというメッセージを込めています。
各現場での毎月1回の店舗ミーティングも大切にしています。 僕らからのやらされ仕事にならないためにも、お客様の声を基準に、覆面調査も入れているのでそういう題材を元に店舗で自主的に考えられるようにしています。できるだけアルバイトが発言できるような環境づくりも心がけています。社員旅行にはアルバイトも参加し、卒業式も行います。社員がアルバイトをめちゃめちゃ大事にしているので慕われているし、そういう関係があるからこそアルバイトがアルバイトを呼んでくれる。そこは強みだと思いますね。アルバイトリーダーの飲み会には僕もできるだけ参加するようにしています。
また、各経営陣には得意分野があるので、 カリキュラムを作って月に1、2回程度学び合う場も作っています。例えば各店舗から代表者が集まって、総料理長が寿司の握り方の講習会をしたり、経営数値を学ぶ勉強会を開いたり。僕が把握していないところでどんどんやってくれています。
—「居酒屋大学」という考え方について教えてください。
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僕が独立して3店舗目をやっていた頃、スタッフの中には「将来は自分の店を持ちたい」というフリーターが多かったんです。そこで、「独立したいと思っている人間の夢を応援する学校みたいな組織でありたい」と思うようになりました。その頃の僕は 「自分の店を持つ」という夢が叶って目標を見失い、遊び回っていました。 そんな時に、社員から「社長みたいになりたくてみんな勉強しに来たのに、もっと僕らの方を見てくださいよ」と言われ、真剣に取り組もうと思ったのが大きなきっかけでした。
僕の姿勢が変わるとだんだんとスタッフのモチベーションも上がっていき、お客様に「スタッフさんすごく輝いているね」とか言われるようになって、純粋にすごく嬉しかったんですよ。「あ、これを一生やっていけばいいんだ」という気持ちになれたんですスタッフの成長と幸せになるし、お客様にも喜んでもらえて、地域にも貢献できる。「うちの会社がやれることは店づくりよりも人材育成だ」と思いました。そうすれば、育てたその人が美味しくて楽しい店づくりしてくれます、人が幸せになるような教育をすれば、あとは自然と広がっていくと思っています。
—小中学校への「出前授業」や地元大学の学生を受け入れるなどの活動をしています。
小中学校の授業では、飲食店の仕事というのを子ども達に理解してほしいという思いでやっていますが、先生役の社員が会社の理念や「自分たちは何をやっているのだろう」ということを再確認する場にも繋がるんですね。社員自身からも「これは続けたい」という声が出ています。今年で6年目になる福岡大学のベンチャー起業論「ビジネスプランコンテスト」に出場する学生たちを受け入れています。20人くらいの学生たちが会社に入り込んで、会社の課題を2ヶ月ほどかけてヒアリングして洗い出します。それをどう改善していくかを学生主体で考え、提示するという約半年間のプログラムです。一昨年は学生たちから「アトモスダイニングの独立制度が、実は現場では身近なものに感じられていない。経営陣と社員との距離を縮めたほうが良いのでは」という課題と改善策が提示されました。それを受けて改善に取り組むなんてこともありました。
どちらの活動も、将来飲食業界に目を向けてもらうきっかけになればという思いでやっています。大学生は授業をきっかけにうちでアルバイトをしたり、人を紹介してくれたりとかするのでありがたいですよね。
—社員やアルバイトがお互いの感謝の気持ちを「コイン」を贈り合うことで「見える化」するアプリ「THANKS GIFT」を活用しているそうですね。
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—社長主導で最近立ち上げたというフランチャイズ事業部について教えてください。
フランチャイズ事業部では、3月28日に福岡・大名に「Shabu Shabu Niagara」というしゃぶしゃぶの業態で店をオープンします。「インスタ映え」狙いで牛肉を鍋の上で滝のように吊るした鍋を開発し、現在特許も出願中です。2年ぐらい前から温めていたアイディアですが、面白いので多分すぐ流行ると思うんです。2店ぐらいやったら、他社に権利を売って全国で100〜200店くらいまで広げたいですね。ただ、こういうのは長続きするとは思っていないので、いかに男性客を取り込んで息長くやっていけるかですね。基本的には美味しくて、払った金額に見合えばいけるとは思います。独立して最初に出店した韓国料理「新陳代謝促進食堂辛辛(カラカラ)」は若い女性にも受けて最初は勢いも良かったんですが、そのブームも7年くらいでした。今回立ち上げた事業部では、流行るものは流行らせて、それが終わったら「次はこんなネタを持ってきましたよ」と他社にどんどん出していけるようにしていきたいと思っています。「辛辛」は福岡や大阪などの15店舗ほどでフランチャイズをやっていましたが、他社と一つのブランドで業務提携してやっていくのは理念の違いなどもあり難しいところもあったんです。今回はスタッフ教育などをちゃんとやってくれるところと組んで、思い切って任せてやっていきたいですね。
—大名にある最新店「食堂うめぼし」の横に新たな店をオープンする計画があるそうですが、今後の店舗数の目標はあるのでしょうか?
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—パーソナルトレーニング専門のジム「大濠ボディデザインスタジオ」も2015年11月から運営しています。どのような意図があるのでしょうか?
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僕自身、10年前に糖尿病を患ったときに栄養士をつけて体質を改善し、体重も大きく落ちました。その後、ローフードの先生に出会う機会もあり、食事の摂り方などを勉強するようになりました。先日もローフードに発酵を加えた「発酵リビングフード」の第一人者の先生のところで社員が修行をしてきました。腸内環境にとてもいいスーパーフードです。これを生かしたスムージーは絶対流行ると思います。まだ日本では商業ベースでやっていくタイミングではないけれど、世論がそっちを向いたときに出せばめちゃくちゃブレイクするはずです。いつでも準備はできているという形を整え、虎視眈々と狙っています。
【山口洋(やまぐち・ひろし)氏】
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1968年、福岡県北九州市出身。大学時代の居酒屋でのアルバイトで飲食業の面白さを知り、卒業後に大手外食産業に入社して経営を学ぶ。2000年に独立し、友人との共同出資で韓国料理「新陳代謝促進食堂辛辛」をオープン。2002年にアトモスダイニング株式会社を設立した。現在、「大衆酒場六本松ごえん」「天神じゃんぼ」「酒処あかり」など福岡を中心に熊本、ロシア、エストニアなどで 27店舗を運営している。
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1968年、福岡県北九州市出身。大学時代の居酒屋でのアルバイトで飲食業の面白さを知り、卒業後に大手外食産業に入社して経営を学ぶ。2000年に独立し、友人との共同出資で韓国料理「新陳代謝促進食堂辛辛」をオープン。2002年にアトモスダイニング株式会社を設立した。現在、「大衆酒場六本松ごえん」「天神じゃんぼ」「酒処あかり」など福岡を中心に熊本、ロシア、エストニアなどで 27店舗を運営している。
(取材=港そら)