水炊きや担々麺の「とり田」ブランドなどを展開しているstudio092が6月3日、福岡市博多区美野島の住宅街の一角に火鍋専門店「美野島火鍋工場」をオープンした。水炊きの丸鶏スープ、担々麺のラー油が香るスープ、鍋料理といった同社の強みを融合させた新業態だ。 同社代表取締役の奥津啓克氏は「ここはテストキッチン的な位置付け。今後は野菜や辛いもの好きな若い女性が多い天神や大名、今泉エリアにも出店したい」と話す。
「工場」を感じさせる遊び心ある店内
同店は水炊きや担々麺のスープを調理する同社のセントラルキッチンに併設されている。同社の食材の工場として料理の試作などを行ってきた場所でもあり、「店内のデザインは工場の実験室的なイメージ 」と奥津氏。厨房のステンレス素材はあえてインテリアとして生かし、床や壁にはモルタルを使用。火鍋の楽しみの一つである約20種の調味料はビーカーに入れてカウンターの横にラインナップする。機能性と同時にデザインも重視し、調味料をすくうステンレススプーンは日本を代表するインダストリアデザイナーの柳宗理デザインのものを使用。デザイナーらと組んでいくつもの新店舗をプロデュースし、 昭和初期の家屋で創作和食店「手島邸」も手がけてきた奥津氏。「工場」ではあるものの、ネルソンのベンチやイームズの椅子など調度品にも手を抜かない。
強みを融合した2色のスープ
奥津氏は「一般的に火鍋はヘルシーなイメージだと思います。だけど実際は塩分が多かったり、簡易的な化学調味料を使っていたりして、野菜も少ないことが多い」と話す。同社の火鍋は料理人たちが水炊きや担々麺のスープとして追求し続けてきた味を生かしているため、ごまかしのない「ヘルシー」を実現している。「火鍋スタンダード」(1人前1980円、注文は2人前から)は鍋の中に仕切りがされ、赤と白の2色のスープが楽しめる。赤は「3種の唐辛子と花椒のアゴ出汁スープ」、白は「九州産若鶏のとろみのある鶏白湯スープ」。具材は日替わり野菜盛り合わせ、金星豚肩ロース、九州産若鶏ももなどが楽しめ、赤のスープは特製生ちゃんぽん、白はチーズリゾットでシメる。 「火鍋アップデート」(同2480円)には自家製エビワンタンやデザートが加わる。ビーカーに入った20種類近くの調味料も山椒や胡麻、パクチー、青ネギなど幅広く、好みの香りをセルフサービスで楽しめる(スープ・調味料代として1人前につき500円)。
アラカルトメニューは練り胡麻や香味醤油、唐辛子のたれをかけた「よだれ鶏」(480円)、青ネギと赤山椒のたれで食べる「しびれ鶏」(同)などのほか、自家製焼売(3ケ、540円)や麻婆豆腐(890円)など。ドリンクでは自家製の「レモネードサワー」(550円)が辛味のある料理とぴったりだ。紹興酒を使った「上海ハイボール」(590円)や梅酒ベースの「太宰府ハイボール」(同)などのオリジナルドリンクも並ぶ。
フランス料理から和食の道に進んだ豊富な経験を持つ料理人であり、温故知新の精神で伝統と創造を大切にしてきた奥津氏。「僕たちがするべきなのは『本場』や『伝統』をそのまま再現することではない。伝統を継承しながら、未来に続く料理の起源となるような料理を再構築すること」と言う。その言葉通り、博多の伝統食である水炊きや中国四川省発祥の担々麺の良さを人々に再認識させるような人気店を育ててきた。新業態について「うちの火鍋はモンゴルでも薬膳でもない。美味しく、ヘルシーに食べてもらいたいという思いで真っ当にやっていくだけ」と語る言葉も自ずと説得力を持つ。
シーフードと立ち飲みの新業態も同時展開
同社は6月27日に博多駅前2丁目に開業した三井ガーデンホテル福岡祇園の1階に博多シーフード「うお田」、博多立ち飲みホッピング「ハカタ#092」もオープンしている。うお田では九州の郷土料理や海鮮を楽しめるブッフェ形式の朝食を提供。夜は糸島・西浦漁港直送の天然真鯛を中心に、旬の魚を出汁で味わう「うお炊き」などの一品料理を揃える。全席に仕切りがあり、接待にも利用しやすいという。店内は「祇園山笠の櫛田神社」と「糸島の牡蠣小屋」をイメージした流線型の大屋根を設置したデザイン。奥津氏はホテル客以外の朝食利用について、「”朝食難民”は意外といる。Airbnbの民泊客はコンビニで済ませている人が多いし、今後都市化が一層進めば郊外から福岡市内に通勤する人も増え、需要が増えるはず」と分析。「『博多一の朝食』を目指す」と力を込める、隣接する「ハカタ#092」では九州ならではの日本酒やこだわりのつまみを揃える。「40、50代の大人がしっかり満足できる立ち飲みにしたい」と奥津氏。店名には同社の社名、studio092と同じく福岡の市外局番「#092」を採用し、ホテルの宿泊客である県外や観光客への「福岡」「博多」の発信に余念がない。「冒頭の『ハカタ』の部分は色々な 地名に置き換えられますよ」と奥津氏。火鍋はもとより、シーフードや立ち飲みなど多業態での展開はますます加速しそうな気配だ。
(取材=港そら)